保護猫を迎え入れたのは3年前。私自身は決断ができず最後まで躊躇していたのだけれど、どうしても、と言う家族に根負けした。いずれやってくる「死別」という苦しみから逃げたかった自分を押し殺し、やってきた新しい家族はその後、「宝物」になった。
独り暮らしをしていたころは、朝、起きてから仕事で家を出るまでの間、ひとことも声を発しないなんてことが多かった。相手がいないのだから仕方ない。夜、帰宅したときも、「ただいま」なんて言葉は、情けなくなるからとても口にできなかった。常に自分自身と声のない会話をしながら、生きてきた。
しかし、一緒に暮らす家族ができて、そこに猫まで加わると、暮らしは一気に変わった。朝、自分より早く起きる猫に、「おはよう」と挨拶する(実際は、普段より声のトーンを上げて、いわゆる「赤ちゃん言葉」風で話しかけるのだけれど、これ以上詳しくは言わない。はずかしくて絶対に言えない)。夜、仕事から帰ってきて寝室の扉を開けると、玄関扉を開ける音に反応して寝室扉の前で待機していた彼女(メス猫です)が、なあ、と鳴いて出てくる。そして腹を見せながらごろりと寝そべる。こんなことをされると、仕事で多少しんどいことがあってもそんなことはふっと忘れて、暑い日にプールの中にざぶんと入った時のように、体全体から力が抜けて、心地よい浮遊感におぼれる。留守番おつかれさま、と彼女をなでまわす時間は数分、続く。
猫を迎える前は、こんな暮らしをこれっぽっちも想像できなかった。つまり今、想像をはるかに超えたことが日常に起きる毎日を過ごしている。かつて、大半の時間を内なる自分とだけ会話して過ごしていた自分を、外へと開くオトナの男へと変身させてくれたのが、一緒に暮らす家族であり、そして猫である。
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