少しでもよい人間になりたい

私も本を置いている下北沢の本屋「BOOKSHOP TRAVELLER」で、面白そうな選書フェアが始まった。宮崎智之さんの選書による「過去と現在をつなぐ日本の随筆フェア」というものだ。エッセイという言葉に置き換えることが多いけれど、そのテーマに注目して本を読むことはいままでにありそうでなかった。エッセイを好んで読むのは、数年前からの習慣になっている。改めて「日本の随筆」と言われたら、どんな本があるのだろうと興味が湧く。近く訪問するのが楽しみだ。

 

早速、著者の本心が垣間見えるエッセイをじっくり読もうと、風呂場に持ち込んだのは辻山良雄「小さな声、光る棚」。荻窪の新刊書店「Title」店主によるエッセイ集で、幻冬舎のウェブサイトの連載をまとめたものだ。独立して本屋を営むものの一人として学ぶべきものがあると感じるのはもちろん、誠実な人柄がにじみ出た言葉に純粋に心が動かされる。声に出して読むのも良い。著者の想いを、自分の体内にしみこませるような感覚だ。これがエッセイの醍醐味だと思う。

 

わたしは人が本を手にとるときの、その純なこころの動きが好きだ。そう意識しなくてもその人は、少しでもよい人間になりたいと願い、目のまえの本に触れているように見える。わたし自身、たとえ同じ日のくり返しに見えたとしても、明日はもう少しいい店にしたい。派手に勝たなくとも、変わることなく長く続けたい・・・。(虹の彼方に)

 

自分が本屋で本を手に取る時の心境を言葉にすると、きっとそういうことなのだろうと今気づいた。「少しでもよい人間になりたい」。その願いが、手を本へと導く。さて、明日はどの本を読み、どんな気分を味わおう。どの本を選べば、明日、少しでもよい人間になれるだろうか。