いつか本屋をやりたい。そんなささやかな夢がある。といっても、四六時中本を読んでいるようないわゆる「本の虫」ではなく、当たり前のように難しい本も読めるような人間ではない自分がやるのだから、「こんなに良い本がありますよ、だからぜひ読んでくださいな」と他人に読書をおしつけるようなことはしたくない。読んでほしいけれど、自分自身はそれほど読むわけではない。そんな矛盾した気持ちを抱えながら、でももし自分がこれまで体験した楽しかったこと、感動したこと、興奮したことなどを他人に伝えることができるのなら。自分の正直な想いを本を通して届けたいと思う。
すでに世の中にはさまざまな面白い本屋さんがたくさんある。だからいまさら、自分が新しい何かを発信できるとはとうてい思えない。品ぞろえに関しては特に何の変哲もないけれど、自宅近くにあって敷居も低く、気軽に入れる本屋もあれば、たまに行ってみたいと思うような荘厳な本屋もある。今日久しぶりに顔を出した大好きな本屋さんは、明日で実店舗を閉めるのだそう。しかし店主は新たなチャレンジをしようとしている。読書の楽しさを伝えることが目的であるならば、店舗を持ってお客さんを待つ、という従来の本屋の形にとらわれる必要はない。売らなくたっていい。貸したっていいし、シェアしたっていい。そのステージはネットだっていいし、移動式だっていい。とにかくその方法はたくさんある。
自分が本屋をやるならば、それを通して何を伝えたいか。そう考えた時に、キーワードがすっと頭に浮かんだ。「呼吸」だ。人間が息を吸って吐くのと同じように、無意識に、当たり前のように本を読むライフスタイルを、一人でも多くの人と共有したい。「私は読書家です」なんて自慢したくはない。どんなに頑張って本を読んでも、それよりもっとたくさん読んでいる人は世の中にたくさんいる。そもそも、本を読むことは「頑張ってすること」ではない。小学生の時、「読書の時間」があって本を読むことを強制されたことがあった。その時の嫌な思い出が残ってしまうと、読書は苦痛でしかない。そうじゃなくて、無理に読むものではないんだよ。本当に読みたいと思ったら、人から「もういいよ、そろそろやめたほうがいいよ」と言われたって読むでしょ。それが読書でしょう。と、いまなら言える。そんな呼吸するような読書をすすめる本屋が、あったらいいなぁ。