呼吸する本

「呼吸」をテーマとした本屋。息を吸って吐くような、特別でない読書をすすめる本屋。そんな「読み手」目線での呼吸の他に、もう一つの視点がある。それが、本の視点。

 

 

自宅の壁面本棚が徐々に本で埋まっていくのを見ていると、もしもっと本が増えていって、本棚が足りなくなったらどうしよう、という不安が当然やってくる。一番自然なのは本棚を増設することだけれど、せっかくの光を取り込む吹抜、不用意に本棚を増やして空間を埋めるようなことはなるべくしたくない。

 

次に考えるのは、本棚はもうこれ以上増やさないと先に決めてしまって、その中で本を増やしたり減らしたりする、というもの。新しく増える分、読まなくなった本は手放すから、フロー型の蔵書になる。それも良いのだけれど、だんだん手放して良いと思える本が少なくなってくる一方、新しい本はどんどん増える。結果、器を先に決めてしまうというのにも限界がありそう。

 

頭の中のさまざまな妄想を経てたどり着いたのが、ドライエリア(地下住戸なのでバルコニーではなくドライエリア)に本棚を置くというもの。つまり、屋外本棚。材質は無垢の木ではなくスチールか?それともウッドデッキで使うようなハードウッドか?いずれにしても、本を置く場所を部屋の中に限定するからいけないのだ、と気づいた瞬間、視界が開けたような快感を覚えた。

 

 

本は紙でできているから、雨が降れば当然濡れて、ふにゃふにゃになるかもしれない(自宅のドライエリアは半分は上階のスラブが屋根になっているので、直接雨がかかるわけではないが)。雨でなくても、湿気が多ければ変形もする。本にとって水は大敵、というのが常識だと思っていたけれど、いや別にそれでもいいんじゃないの?と思いさえすれば、何の問題もないじゃないかと気づいた。普段風呂で湯船につかりながら、手で表紙を多少濡らしながらも本を読んでいるじゃないか、だいたい。

 

 

理想の本屋がある。アメリカはオハイにある「バーツブックス」。一軒家のこの本屋は、パラソルの下に本棚があるなど、完全に外気に触れた屋外本屋。「オハイの雨はまっすぐに落ちるので、決して本は濡れないの」という店番の言葉からは潔さがにじみ出ている。閉店中もコインを壁の穴にいれれば本を取ることができるという、無人直売所のようなしくみ。こういう信用によって成り立っているところにも、憧れる。

 

世界で最も美しい書店

世界で最も美しい書店

  • 作者:清水 玲奈
  • 発売日: 2013/02/26
  • メディア: 単行本
 

 

 

外気に触れて、本がふやける。紙は反れ、変色するかもしれない。しかしそれを、本の「呼吸」だと思えば、さらに本に愛着を感じることができないだろうか。本の呼吸を可視化した本屋。もしそんな本屋があったら、行ってみたいと思う。