弱さのちから

連休最終日、大型書店で新刊を手に取った。昨日はどんなに書店を探してもなかったから、今日店頭に並んだのか。彼の本はとりあえず買って読んで、その言葉を心にしみこませようと思っているのだけれど、それ以上にいま、このような状況で、きっと彼に助けてほしい、彼の言葉で、自分の心に巣くうざわざわした何かを取り除いてほしい、そう願っていたのかもしれない。2フロアーある広い店内であるにも関わらず、この本を見つけてからは、他の本を手に取る気がしなくなった。

 

環境のせいにするわけではないけれど、いま、誰もが想像しえない脅威によっておびえる日々を過ごしている。でもそれは、ウイルスによって自分が弱くなったわけではなく、いままでも自身にひそんでいた弱さが、ウイルスによって表出したに過ぎないのだと思う。そして、これまで生きてきて気づかなかった身のまわりの「立場が弱い他人」に否応なく気づかされた。その一方で、その「立場的に弱い」他人に支えられることで今日の暮らしが(脅威が蔓延している中でも)比較的平穏にできているという事実にも。

 

こうした出来事に気分を揺り動かされ、自分のこれからについて深く考えようにも集中力を保つことができず、身体も不調を覚える。普段であれば、そんなことではいけない、もっと強くあれ、と自分を鼓舞するのだろうけれど、そうではなく、自分はそれだけ弱い存在であることをまずは認める。傷ついている自分から目をそらさず、向き合おうとする。そのあとで、弱い自分であっても危機を乗り越えるには、どう過ごしたらよいか、を建設的に考えていくべきだと思った。そう考えていけばおのずと、自分のまわりの、いままで気づかなかった「弱っている他人」の存在に気づき、寄り添うことができるのではないか。「弱っている他人に気づき、寄り添うこと」の連鎖こそが、危機を脱して平穏を取り戻すための術なのではないか。

 

弱さのちから

弱さのちから

  • 作者:若松 英輔
  • 発売日: 2020/07/22
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)