水準

森田真生「数学の贈り物」を湯船につかりながら読む。自分より少し年下の独立研究者が、アインシュタインやデカルトなどの先達の言葉を用いながら、静かに語る。膨大な知識・知恵を得て考えているのだろうと思わせる言葉に触れ、自分も同じように考え抜かなければ、と思う。

 

先人の涙ぐましい努力が生み出した技術をただ便利に消費しているばかりでは、一向に「それが生み出されたとき」の水準以上の思考ができるようにはならないだろう。

 

片手に収まるこの美しく洗練されたコンピュータを生み出したのと同じくらいの情熱と意志と知恵を、僕らがこの技術に見合う存在に生まれ変わるために注ぐことができれば、世界はきっといまよりずっと、生きがいのある場所に変わっていくだろう。

 

スマホをただ漫然と消費するのではなくて、それによって得られる便利さを、自分をさらに成長させるためのエネルギーに転嫁させなければならない。そう思った。

 

 

仕事ではポカもする。自分ではそんな意図は全くないのに、結果として不誠実ととらえられるようなことをしてしまう。いつだって、仕事に対する「自己評価」よりも低いリアクションに、悩まされる。いまこの状況から逃げ出したい、かっこ悪いと思われたっていいや、と思ったことがこれまで何度あっただろう。

 

それでも最終的に逃げないということを選択してきたのは(逃げたこともあったかもしれない・・・)、逃げるのが恥ずかしいからでもなければ、怖いからでもない(恥ずかしいし、怖いけれど)。逃げる、つまり、もうどうだっていいや、という気分に任せて投げ出すことが、相手が一番望まないことだろうと思うからだ。

 

自分が逃げても誰も困らないなら、逃げる。あと、自分がどうあがいても相手にとって不幸になると確信してしまったら、逃げる。それ以外なら、できる限り誠実に、相手が望む結果になるよう、動く。

 

仕事とは、そうやって自分の身体や頭をはたらかせて、相手に幸せを感じてもらって、その結果、ありがとうと言ってもらうための営みなのだといまは思う。

 

スマホのような革新的な技術を生み出したかつての先人の努力の結晶を使って、その水準以上の思考をし、その技術を使うにふさわしい自分になろうとするように。仕事を通して、どうしたらありがとうと言ってもらえるのか、先人の水準以上の思考力で考えようとしなければならない。

 

数学の贈り物

数学の贈り物

  • 作者:森田真生
  • 出版社/メーカー: ミシマ社
  • 発売日: 2019/03/20
  • メディア: 単行本