ぼくとわたしと本のこと

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大学に入学した頃、卒業するまでに岩波新書を100冊読むという計画をたてた。均すと年間25冊。1か月に2冊のペースだ。当時の自分にはかなり高いハードルだったけれど、そうでもしないと本を読まない、頭の悪い大人になってしまいそうな気がしたから、やろうという気力が湧いた。

 

なぜ岩波新書なのかと言うと、それは自宅の父の本棚に並んだ大量の岩波新書を見て感動したからだ。昔は表紙が赤ではなく、青であったり黄色であったりしたらしい。父が読んでいたという、色褪せたものも並んだその本棚を見て、小中高と図書室で本を借りた記憶がほとんどない自分は劣等感を感じた。大学生たるものそうであってはいけない、と一人意気込んだ。

 

その目標は、大学生活を謳歌するなかでいつのまにかうやむやになり、「本をたくさん読んだゾ」という実感もたいしてないまま、卒業した。結局何冊読んだのかも覚えていない。典型的な三日坊主だが、でも、本は読むべきものだということ、「学生が本を読まなくなった」と世間で言われて肩身が狭かった中でも自分はまだ読もうとする意識は高い方だということ、それでも何か目標を持たなければ全く読まないままズルズルいってしまうこと、その3つは大学時代に知ることができた。

 

 

夜、事務所にて。仕事がなかなかはかどらない。そういえば、今日は昼ご飯を食べるのを忘れた。いや、忘れたというのはうそだ。食べに出かけるのが億劫なくらい、目の前の業務の波におぼれていた。だから腹が減ったので、息抜きもかねて外へ。ラーメンを食べた後、立ち寄った駅前の本屋で、平積みにされたそれに真っ先に目が合って、心奪われた。

 

カバーがない。背表紙にはバーコードも定価表示もない。あるのは白地に、本を持つ男性と女性の絵。背表紙は、女の子に本を渡す男の子の絵だろうか。無防備な表紙が本屋のほこりをわずかに帯びていて、新刊であるにも関わらずエイジング感を感じたくらいだ。そんな美しい装丁もさることながら、自由が丘の大学の教授と21人のゼミ生が著者、というのが面白い。大学生の「いま」に触れられると思ったし、なにより、自由が丘で働く自分が自由が丘の本屋で自由が丘の大学生がつくった本を手に取るという、街に媒介されたストーリーに、自ら飛び込みたいと思った。

 

いまの大学生の、正直なまでの「いま」が詰まっている。昔は本を読まない少年だった、そんな言葉に出会っては、あぁ自分だけじゃないんだ、と安心する。自分の本棚をつくりたいという欲望の話を読んでまた、いまの自分と同じことを十数年年下が考えていることに安心する。末尾に「本書に登場する本・雑誌」という一覧があり、その中に自分の好きな作家の本が複数あることに気づいては、自分の選書もあながち間違っていないんだ、と安心する。自分のこれまでの本との付き合い方を認めてくれて、「それでいいんだよ」と肩をたたいてくれる、そんな本だ。

 

岩波新書を100冊読むなんて無茶をして挫折し、それでも「じゃぁもういい、本なんて知るか!」とそっぽを向かずに済んだ、大学時代が懐かしい。

 

ぼくとわたしと本のこと

ぼくとわたしと本のこと

  • 作者:高原純一,SUN KNOWS
  • 出版社/メーカー: センジュ出版
  • 発売日: 2019/12/20
  • メディア: 単行本