シェーファーの万年筆

オトナの男に近づこうと思い、万年筆を買う決意をする。そうすることで本当にオトナになれるのかどうかは、定かではない。使ったことがないので、正直言って書き味は、不明。予想外の使いづらさに、投げ出してしまう可能性もある。でも、少なくとも字を書くときの気持ちというか、心配りが変わるような気がして、無性に憧れるのだ。

 

仕事柄、メールを送ることが多い。メールの弊害はいろいろなところで言われているけれど、2割増しで気持ちを意識して書かないと、相手に無愛想に見えてしまうように思う。文章が同じであれば誰が書いても同じモノが届くメールの場合、書き手の気持ちの入り込む余地が少ない。だからなのか、いま仕事上で送っているメールの全てを手書きの手紙にするのは難しいけれど、手書きで文字を書いて送る、ということをしたくてたまらなくなる。

 

 

きっかけは、ボールペンだ。前職を退職する時、職場の仲間にプレゼントで頂いたのが、シェーファーのボールペンだった。ずっしりと重く、なめらかな書き味のボールペンを、頂いてしまった。仕事ではほとんど成果を残せず、言ってしまえば給料ドロボーだった自分が、窃盗の罪を償うこともせず、一方的に去るだけでもバカヤローなのに、そんなバカヤローのために送別会まで開いてくれて、プレゼントまでくれたのだ。次の仕事は死ぬ気でやんなきゃまずい、と思った。そんな、嬉しくもあり、罪の意識に苛まれもする思い出のボールペンを、いまも大切に使わせてもらっている。

 

万年筆を買うなら、シェーファーだ。さらに、このボールペンにふさわしい相棒がいたらいいな、という想いから、買う万年筆はもう決めた。最近知ったお気に入りの文具屋(※)で偶然見かけたことが、決め手になった。

 

ペンケースの蓋をあけると、存在感のある二人が顔を出す。そんな姿を想像する。形だけじゃないか、と言われたっていい。これで気持ちだけでもオトナになれたら、いい。

 

(※)

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