砂漠

奥沢に「Children」というバーがあるということを、自由が丘のお店を紹介する「自由が丘の贈り物 私のお店、私の街」という本を読んで知った。そのネーミングを見た瞬間にぱっと頭に浮かんだのが、伊坂幸太郎さんの小説「チルドレン」だったから、その小説が店名の由来であることを知ったときは、驚いたのと同時に、自分と似たものに感動し、リスペクトし、店名にする彼らに共感を覚えた。「俺たちの仕事は奇跡を起こすんだ」という小説の中の台詞を合言葉にしていたという彼らに対して、先に良いアイデアを取られたかのように嫉妬した。ぶっきらぼうながらも奇跡を起こすように仕事をする陣内さんを想う。

 

奥沢2丁目?地図で調べると、奥沢神社のすぐ近くだ。へぇ、あのあたりに、そんな素敵なバーが。と検索をしていたら、いまは閉店しているという事実にたどり着いた。もしそのお店が存続していて、今夜も常連さんに美味しい料理と美しい時間を提供しているということを「奇跡」と呼ぶのだとすると、奇跡は起きなかったのかもしれない。しかし、彼らのことを何も知らない自分は、彼らが奇跡を起こすことができなかったなんて言える立場にない。

 

 

好きな小説の言葉に影響を受けて店の名前にするというのもかっこいいなぁ、と憧れの気持ちを持つことができた。自分もそういう合言葉になるようなフレーズに出会いたい。いや、もうあるはずだ。例えば・・・。

 

砂漠。伊坂幸太郎さんの小説の中で真っ先に格言調の言葉が思い浮かぶのがこれだ。「その気になれば砂漠に雪を降らせることだってできるんですよ」「目の前の危機を救えばいいじゃないですか。目の前の危機を救えない人間がね、明日世界を救えるはずがないんですよ」西嶋の言葉を何度繰り返し読んだことか。奇跡を起こすことを合言葉にするのなら。大風呂敷を広げるんじゃなくて、いま目の前にある問題を解決するために自分は何をしたらよいのか、ということを考えるなら。テーマに掲げる小説は、これだ。ぴったりだ。

 

砂漠。例えば本屋も雑貨屋もレストランもなにも近くにない地方に人を集めることが、砂漠に雪を降らせることと同じくらい難しいのであれば、それはやる価値がある。バー砂漠。ブックカフェ砂漠。ギャラリー砂漠・・・。どうだろう、いまにも雪が降ってきそうじゃないか。そんな価値あるお店を、いつかつくりたい。

 

 

彼らの合言葉が、本を介して、そのお店に行ったこともない下戸な男の目に留まり、その店名の由来であるエピソードから刺激を受けて、別の小説のストーリーを思い出し、新しいアイデアが生まれた。これもきっと彼らが起こした奇跡だ。

 

自由が丘の贈り物 私のお店、私の街

自由が丘の贈り物 私のお店、私の街

 

 

チルドレン (講談社文庫)

チルドレン (講談社文庫)

 

  

砂漠 (新潮文庫)

砂漠 (新潮文庫)