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伊坂幸太郎 「魔王」 講談社文庫
会社員の安藤にはある特殊能力があった。それは、自分が念じたことを相手にしゃべらせることができるということだった。その能力に気付いた安藤は、その能力を使って世界を変えようと、ある議員に近づいていく。
一方、そんな安藤を慕うのは弟の潤也。潤也は猛禽類の調査の仕事をしながら、世界をのんびりと傍観する・・・
特殊能力を持った主人公の安藤を中心に、情報に惑わされる社会の危うさを指摘する。その能力を持っているのは自分だけだと思い、他人は情報社会の危険性に気付いていない、その状態を、シューベルトの「魔王」に例えている。
この本に感情移入した理由の一つは、主人公が「安藤」であること。無意識に自分と同化させていた。
また仲の良い弟の潤也の性格がいい。まさに理想的な兄弟だな。
読み終わって最初に抱いた感想「気持ちわるっ(笑)」
別に気持ち悪い話というわけではなく、読後の妙にさわやかな感じ、なにか大切なメッセージを残しているであろうはずなのに、それを鮮明にイメージできない感じ。
「えっこれで終わりなの?」と思わず言いそうになった。
誰もが正だと思うようなことでも、それが本当に正かどうかはわからない。
だれもが信じて疑わないようなことでも、よくよく疑うと実は信用できないようなこともある。
そう気付かせてくれる。
「物事の大半は、反動から起きるんだ」
「みんな、自分だけは逆の道へ進もうと反発するが、けれど、それが新しい潮流となる」
「おまえは、日本の歴史をどこまで知っている?日本のアジアでの位置づけを、世界との関わりを、俺よりも考えているのか?それならば意見を聞こう。もし万が一、おまえの考えが、そこらのインターネットで得た知識や評論家の物言いの焼き増しだったら、俺は、おまえに幻滅する。おまえは、おまえが誰かのパクリではないことを証明しろ」
「私を信用するな。よく、考えろ。そして、選択しろ」
「おまえ達のやっていることは検索で、思索ではない」
何気ない言葉の中に、ギクッとさせられるものがちりばめられている。