物欲

モノを買いそろえたい、という物欲がほとんどなくなった。ゼロになったわけでは当然ないのだけれど、だいぶ少なくなった。昔は、カッコイイ腕時計があれば自分の士気を上げる目的で買おうと決めて、お小遣いをためた。シンプルで大人っぽいスニーカーがあれば(今も好きで普段はいているスニーカーだ)何足か揃え、古くなって処分したらその分新しいものを追加しようとしていた。そうした気持ちがしぼんでいったのは、一つにはケチになったから、というのもあるのだろうけれど、もう一つは、希望のモノを買いそろえている充実した自分、という状態に飽きた、というのが本音だ。

 

買いたかったモノを買うことができたその瞬間は、確かに興奮しているし、嬉しい。それ以降の毎日が輝いて感じられる。しかしその興奮にも限界があって、いずれ過去のものになる。それだったら、次から次へと新しいものを手にするのではなく、今手にしているものを長期間、大切に扱った方が、嬉しさが長続きするのではないか。誰もが考えることだろうけれど、そう思ってからは、物欲が急になくなった。それはつまらない人間になったとかそういうことではなく、端的に良いことだと思っている。一瞬感じる物欲しさに飲み込まれない忍耐力は、大人には必要だろうと思う。