君のいない部屋

4月に引っ越すにあたって、自宅の壁面本棚と机、椅子を家具屋さんに引き上げてもらった。メンテナンスをしてもらい、椅子も座面の布を貼り替えてもらい、新居に新しく納めてもらう。約3年半、本と、私の体重を支えてくれた本棚と机に感謝をしつつ、しばしのお別れ。来月、生まれ変わった相棒との再会を、楽しみにしている。

 

その相棒がいなくなり、広く感じられる部屋の中心で、これを書いている。本棚があった壁はいまは一面の白。寂しいはずなのに、一方で清々しさも感じている。昼間、本棚がなくなった直後の部屋の明るさと言ったら、なかった。別にいままで日差しを遮っていたわけでもないのだけれど、いなくなって明るさを感じるということは、いままで日差しをたっぷり身体で浴びていたのではないかと思う。「色が変わりましたね」家具屋さんにそう言われ、毎日見ている自分は気づかないけれど、きっと時を経て、褪せたのだろう。

 

殺風景になったともいえるこの部屋で、数年前の自分だったら、もともとそこに本が積んであったように、一度クローゼットにしまった本を引っ張り出しては床に並べていたんじゃないかと思う。本棚がない分、縦に積む量には限界があるけれど、いままで本が現にあったのだから、と床に本を置いていただろう。その方が、読みたいときに読めるし。

 

けれどいまは、そうしたくない。本を探すのに時間はかかるけれど、しばらくはクローゼットにしまって目に見えない状態で過ごすのも良いだろう。「いままであったモノがなくなったことで生まれた空間」の存在を、身体で感じたい。そこに余白ができたからといって、これまでなかった別のものを置くなんて野暮なことはしたくない。「埋めようと思ったら埋められるのだけれど、埋めないことでそこにある余白の空間」を大事にしたいと思った。