くるまやラーメン

何年振りだろう。妙典のくるまやラーメンに行った。3年前に都内に越してきてからは少なくとも来ていない。社会人になりたてで、自由な独り暮らしを謳歌していたころに何度かラーメンを食べたくらいだ。もしかしたら10年以上来ていないかもしれない。

 

そこの味噌ラーメンはにんにくたっぷりで、ごく普通の美味しさだ。特別感は決してないけれど、だからこそ気が向いたら食べに行こうと気軽に思えた。当時住んでいた家のすぐ近くで、腹が減ってラーメンが食べたかったらすぐに食べに行けた。物理的にも、精神的にも、距離が近かった。

 

あまり行かなくなったのは、近くに別のラーメン屋が何軒かあって、それぞれが特徴的で、美味しかったからだ。普通に美味しいラーメン屋に背を向けて、刺激的な美味しさのお店に行っていた。そういうお店が好きな時期だった。

 

今もお店の好き嫌いの基準はたいして変わらないけれど、なんだか急に、無性にくるまやラーメンのラーメンが食べたくなって、今日妙典に遊びに行ったついでに、味噌ラーメンを食べた。チャーシュー5枚トッピングと、餃子付き。なつかしい味だった。

 

最近、妙典に行くとまるで故郷に帰ったかのように安心し、心が落ち着くと感じるのと同時に、ほんのちょっとなのだけれど、心がざわついていることにも気づいた。社会人になりたての頃の、無知で、幼稚で、プロ意識がなく、仕事がうまくいかず悶々としていた日々のモヤモヤとした記憶と、それらのお店で気晴らしにご飯を食べた記憶とが結びついていて、思い返されるからだ。イヤーな思い出を自分で蒸し返すようで、本当のことを言うと、久しぶりに食べに行きたいと思いながらも足が向かないラーメン屋とかがいくつかある。故郷の思い出に浸りたいのか、それと決別したいのか、どっちなのかは自分にもよく分からない。

 

そう考えると、くるまやラーメンもそのイヤーな思い出とセットで自分に迫ってきそうなものだけれど、どうやらそれほど苦しみながらここでラーメンを食べたことはなかったらしい。普通の味の普通の味噌ラーメンが、久しぶりに食べに来た浮気者に、安心感をもたらしてくれた。