吉祥寺とエスプレッソ

この街に来て昼ご飯を食べよう、ちょっと休憩しよう、と思ったらここと決めているお店がある。ビルの地下にあるその穴倉的喫茶店の入り口には、十中八九「●●名様以上のご案内はできません」という案内盤が。自分がいまその店に入ることで、この案内盤が「只今満席です」に変わってしまうんじゃないか、と言う不安が頭をよぎる。それでも勇気を振り絞って入ると、いつものマスターが出迎えてくれる。その「いつもの」感が、なぜか自分を安心させてくれる。

 

「SEINA CAFE」エスプレッソの専門店で、だからここへ来たらエスプレッソしか飲まない。その代わり、エスプレッソはお代わりができる。一杯の量が少ないからすぐ飲み終わっちゃうけれど、2杯飲めば、かなり満腹感を味わえる。最近は、お代わりが「できる」を通り越して、1杯目を飲み終わってしばらくしたら何も言わずにマスターが2杯目を持ってきてくれるようになった。エスプレッソを推す意気が、なんだか嬉しい。

 

そんなマニアック度の高い喫茶店に出会ったものだから、吉祥寺という街と結びつく自分にとってのイメージは、かなり特殊なものとなった。「吉祥寺と言ったらポーカーフェイスのマスターがいれてくれるエスプレッソ」なんて言う人、他にいないだろう。もっと他に分かりやすくて面白い景色があるんだと思う。だからこそ人気の街となっているのだと思う。でも、もっとマニアックで、ターゲット層狭いだろうなぁっていうお店もたくさんあったりする。私にとっての吉祥寺は、ハモニカ横丁でも井の頭公園でもキラリナでもなく、地下の小さなエスプレッソ専門喫茶店なのだ。

 

今日、吉祥寺での仕事を終えた後、寄ろうかなと思ったのだけれど、仕事の後で早く帰りたいという気持ちがどこかあったのか、スルーしてしまった。休日は特に人が多く賑わう街だからきっと入れないだろう、入れてもゆっくりできないだろう、という気持ちもあった。ここに来るときは、もっと気持ちにゆとりがあるとき、ゆっくりできるときにしたい。