定期入れ

いつもの駅。改札口を通過するときに定期券をかざす。いままでは定期入れごとパチンと触れていたけれど、ふと、なんだかそうしたくない気になって、そっと近づけるだけで通過するようになった。そのきっかけは、素敵な定期入れをもらったからだ。

 

これまでも、まるで定期を叩きつけるようにして改札を通過する人を見るたびに「なんだかなあ。もっとおおらかになれないものかね」なんて思っていた。そしてそう言いながら、自分もちょっと不機嫌な時は叩きつけることもあり、よくないよくない、と落ち込んだりしていた。だから、そっと触れるように意識してはいた。

 

それがより極端になった形だ。触れなくても、近づければ反応する。だから触れなくなった。定期入れを握る右手の指の部分でタッチする。ほんの少しだけれど、心に余裕ができたような気がした。

 

手触りのよい革の定期入れ。寒い冬、コートのポケットに手を突っ込んで背中を丸めて歩いていても、ポケットの中で定期入れを触っていると、相手を感じられてなんだか暖かくなってくる。