両面性

法律を学ぶことによって得られることの一つに、物事の「両面性」に気づく想像力があると思っている。例えばある人が、「誰々からこのような被害を受けた」と主張したとしよう。弁護士であれば、それがどれだけその人の人権を損ねているかを判断して、例えば損害賠償という形でその人を救うことができる。本来持っている権利を行使できない人が泣き寝入りしないで済むように、手を差し伸べるのが弁護士の有意義な仕事である。ただ、弁護士はクライアントの利益を最優先して解決方法を導くだろうけれど、クライアントに対抗する意見もあって当然で、「どんな反論が考えられるか」を考えることもまた、弁護士に求められる。こちらはこう主張する。しかし相手は相手で、その主張をかいくぐって別の角度から攻めてくるかもしれない。相手には相手の、加害するに至る切実な事情があったのかもしれない。そうやって「かもしれない」を複数の視点から考える態度って、弁護士に限らず、起きた出来事に一喜一憂せず冷静に対応できる大人であるために必要だろうと思う。

 

Season22 第3話「スズメバチ」

 

薫と久しぶりの再会をはたす陣川。また厄介な相談事をもちかけてきたのかと思い警戒していると、角田から事件の知らせが入る。公園で倒れている男性。その周りにはスズメバチが飛びまわっている。スズメバチに刺されないように慎重に男性に近づく右京と薫。男性は胸から血を流し、死んでいた。男性が持っていたレシートからあるカフェへとたどり着き、女性店員がトラブルで最近カフェを辞めていたと知る。その女性の自宅を訪問すると、なんとそこに陣川がいた。「事件に関連する女性をひょんなきっかけで好きになってしまい、彼女を庇おうとする」陣川が、今回も右京と薫の邪魔をする。

 

飛びまわるスズメバチが象徴するものが最後に分かる。相棒を観ていて頻繁に思うのは、このような「事件の動機を何か別のものに象徴させる」というのが、本当にうまいなあ、ということ。しばらく観ていたら「これ、スズメバチが出てくる意味、あるのか?」と思うのだけれど、後半の薫の一言でガラッと変わった。「いつ危害を加えられるか分からない恐怖」がスズメバチにおびえる心境と重なり、ぞっとした。

 

考えさせられた点がある。彼のDVから逃げて交番に駆け付けた女性が、彼の狡猾さを見抜けず助けてくれなかったお巡りさんに失望した、というのが一つの事件の動機になっているのだけれど、これがもし助けを求められたお巡りさんの視点だったらどうだったろう、と考える。もしお巡りさんに、過度に女性を保護しようとしたあまり男性側の更生機会を奪った過去があったとしたら。もしくは、お巡りさんの目を欺くためにわざとらしく謝った彼の視点でも良い。もし男性が、一時頭に血が上って手をあげてしまっただけで、心から反省したにもかかわらず、不相応の重罪を受けることになっていたとしたら。そうやって各登場人物の目線になってみれば、「彼女を救わなかったお巡りさんが悪い」と一方的に決めつけることはできないだろう。その決めつけが正しいか正しくないかはさておき、複数の立場がある、出来事には裏表の両面性がある、ということに気づけると、一方的に誰かを非難して傷つける、といったことはなくなるよなあ、と思う。