一人出版社の10年

好きな本屋がトークイベントを企画しているとSNSで知った。一人出版社「夏葉社」代表の島田潤一郎さんが起業してからの10年を振り返る、というもの。これまででは考えられなかったようなことも仕事になりうる、それだけ自由に働くことができる社会になってきているということは実感するけれど、本を企画し、発行する「出版社」を一人でやってしまうというのも、自分にとっては驚きの仕事だ。それを志したきっかけや想い、それを仕事として継続するためのノウハウを学んで、自分の生き方の参考にしたいと思った。

 

古くてあたらしい仕事

古くてあたらしい仕事

  • 作者:島田 潤一郎
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2019/11/27
  • メディア: 単行本
 

 

夏葉社。「何度も、読み返される本を。」というキャッチコピーが目をひく。丁寧に企画し、緻密につくって、世に出しているんだろうと思う。

 

刊行書籍の一覧を見ていたら、知っている本が何冊かある中で、持っている本があって、びっくりした。「すべての雑貨」という本だ。この本の出版社が夏葉社か。知らなかった。

 

すべての雑貨

すべての雑貨

  • 作者:三品 輝起
  • 出版社/メーカー: 夏葉社
  • 発売日: 2017/05/01
  • メディア: 単行本
 

 

西荻窪の雑貨店「FALL」を営む著者によるエッセイ。確かに夏葉社のコンセプト通り、最新のトレンド的情報をさっと読んだらはいおしまい、というものでは決してなく、静かに淡々と語られた文章をゆっくりと読んで、異次元的な時間が流れていそうな雑貨店の空気を感じながら、いまいる時間をじっくり味わおうと思える、不思議な本だ。

 

「音楽を聴いたころ」を読んで納得。自分も音楽が大好きだけれど、もう一つ好きな別のものと混ざったらどうかと考えると、必ずしも親和するとは限らない。例えばロックは大好きだし、本屋巡りも大好きだけれど、好きな本屋で本棚を眺めている時にロックが流れてきたら、いやいや、いまじゃなくてあとにしてくれ、と思う。それが自分の中でドストライクの音楽であっても、だ。本を選ぶのに集中できなくなると言ったらいいのか。とにかく音楽そのものに全く罪はないのだけれど、今このタイミングはやめてほしいと思う。別々の好きなものを組み合わせて唯一無二の価値をつくることができる一方で、うまくいかない組み合わせもあるのだと知った。

 

この本、どこで買ったんだったっけ。思い出せないけれど、よく覚えているのは、複数の本屋、それも大型書店ではなくセレクト本屋で見つけ、気になっていたものを、何度目か目にしたときにようやく迎えたということだ。本のセレクトにこだわりのある複数の本屋が店頭に並べている本。きっと、ずっと傍らに置いておく価値が潜んでいるんだろうという予感があった。

 

何度も読み返すような、ある人にとって特別な一冊となるような本を世に放つ。そうした働き方が成り立つのだということを知って勇気づけられる人もたくさんいるはずだ。そしてそういう志を持つ人が増えたら、もっと街の本屋は面白くなると思う。