みせのなまえをかんがえる

吉祥寺の本屋さん「青と夜ノ空」で、言葉を扱うワークショップがあるということで、興味があったので参加した。詩人であり、雑誌「nice things」の巻頭でも詩めくりを連載しているウチダゴウさんが講師。喫茶店や本屋、家具修理工房など、さまざまなお店が書かれたカードの中から好きなものを選び、裏に書かれた細かい設定(店主の年齢、扱う商品のテーマ、開業の動機など)に沿ってそのお店の名前をつける、というものだった。

 

自分が選んだお店は「文房具屋」。とくにアイデアがあったわけではないけれど、身近なものを商品として扱うお店だし、文房具への想いをネーミングに反映させやすいのではないかと思い、選んだ。そして、A4の無地の紙に、頭に浮かんだものをどんどんと書き込みながら、アイデアを、あるときはつなげ、あるときはひとつのものからふくらませて他のアイデアを生み出していく。その考えるプロセスが、普段使わない脳の部位を使っているようで、苦しくもあり、面白くもあった。

 

特に自分にとって大切だと思った考え方は、「持続可能性」があること。1年2年で終わるものではなく、10年20年と長い期間使い続けるのがお店の名前である。例えばあまりに高い目標を掲げていることを示唆するネーミングにすると、最初のうちこそそれをモチベーションに頑張ろうという気にもなるけれど、しばらく経ってそうもいっていられない状況になった時に、困ってしまう。売り方などが仮に変わっても、変わらない芯のようなものを言葉にすることが重要だと学んだ。

 

2時間超考え続け、最終的に決めたのが、「手紙屋 ミエナイイト」。「取扱商品の選定基準は『愛』」という設定から、誰かに手紙を書くための文具専門店とした。手紙を書いているときに人は相手のことを想っていて、そのとき自分と相手との間には見えない糸があると思うんです、なんてことを知った風な顔で口にしたのをふと思い出し、そのままそれがネーミングになった。文房具店でなく「手紙屋」となったのは、ウチダゴウさんだったか、他の参加者の方だったか、アドバイスをもらったのをそのまま拝借した。最後は、ウチダゴウさんにそのネーミングをカードに手書きで書いてもらい、いただいた。

 

参加者全員のネーミングが書かれたカードを眺めて、思う。何年後か、何十年後かわからないけれど、これらのうちひとつでも本当に実現したら、面白いだろうなぁと。もしその実現を知った時は、真っ先にそのお店に行き、「あの時の!」なんて挨拶を交わした後、そのお店への想いを聞きたい。