お気に入りの本屋で、一冊の本を買った。昨年のことだ。
もともと「手紙を書くということ」には無関心ではなかった。直筆で言葉を紡ぐ手紙には、メールでは表現できない力が宿っていると思っていて、頻繁ではないけれど、書くことがあった。恥ずかしがらずに書いていいんだ、と自分に自信をもった最初のきっかけは・・・。やはり尊敬する松浦弥太郎さんの影響だろう。ビジネスに限らず、言葉を伝えるツールとしてメールが大半を占めるいまだからこそ、手紙を受け取ったときの印象が強く残る。筆まめであれ。自分にそう言い聞かせた記憶がある。
そのとき手にした「手紙を書きたくなったら」という本が、手紙を書くのが好きだという気持ちを確信へと変えた。こんなに手紙を愛している人がいるんだ、と驚いた。そしてなにより嬉しかったのは、相手が返事をくれることを期待するワクワクを、素直に語っていたこと。自分はいままで、相手からの返事を期待するのはあまりかっこよくないことだ、手紙を書くのは書き手がただ書きたいからであり、返事(見返り)を求めるのはよくないと思っていた。だけど、贈る以上はリアクションが欲しい。当たり前のことだ。カッコ悪いことではなく、正直に返事を期待してワクワクしていていいんだ、と思えたのは、彼女の手紙に対する愛あるエピソードに触れたからだ。
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「京都のこころA to Z 舞妓さんから喫茶店まで」という本を、数年前に手にしてから、いまでも大切に読んでいる。京都のことを頭文字AからZまで並べて紹介するもので、読んでいるだけでちょっとした京都旅行気分に浸れる。今京都を好きでいられる直接的な理由は、中学高校の修学旅行での思い出ではなく、この本ではないかと思っている。
「M:舞妓」では、著者の木村衣有子さんの花名刺が登場する。幾岡屋という小間物屋では、舞妓さんが使う花名刺を個人用につくることができるのだとか。その写真に写る木村さんの花名刺がとにかくきれいで、こういうオーダーメイドもいいなぁ、と思った。肩書の書き方、名前の文字の書体、色から、木村さんの姿を勝手に想像する。こうして分かりやすくて丁寧な文章を書くくらいだし、きっと純朴で、美しい方なんだろうなぁ、と。もしかして、本物の舞妓さんなんじゃないか、と。
京都のこころAtoZ―舞姑さんから喫茶店まで (ポプラ文庫)
- 作者: 木村衣有子
- 出版社/メーカー: ポプラ社
- 発売日: 2009/10/10
- メディア: 文庫
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先日、楽天ブックスで面白そうな本にたどり着いた。手紙好きな彼女の著作。「手紙を書きたくなったら」に続く、彼女の手紙ライフをもっと深く味わえる気がして、すぐにカートに入れる。
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面白そうな本屋が田原町にできたことを雑誌で知り、行ってみた。古いビルを改装したその本屋は、壁一面に木で棚をつくり、ずらっと本を並べている。その迫力ある本棚にも惹かれたし、置いてある本もなかなか目にしないようなものが多く、楽しめた。
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そこで見覚えのある著者名が目に留まる。「木村衣有子」。あぁ、京都のこころの方だ。でもその本は・・・「コーヒーゼリーの時間」。なぜコーヒーゼリー?帯に書かれた「あぁ、悔しい。こんな素敵な企画、dancyuでやりたかった」というdancyu編集長のコメントとは真逆で、そんなのに関心を持つ変わり者がいるのか?ターゲット狭すぎやしないか?なんて思ったけれど、著者の文章を味わいたいという気持ちもあり、結局は自分がその変わり者となった。レジで本を差し出したときに、主人が「君、見る目あるね」と心の中で思ってくれたかのような空気をほんの少し感じたのは、気のせいだろうか。たまにはホットコーヒーではなく、コーヒーゼリー目当てに喫茶店を巡るのも、面白そう。
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「ゆっくり、つながる手紙生活」をカートに入れたあと、関連商品を見ていて、見覚えのある著者名が目に留まる。「木村衣有子」。あぁ、京都のこころの方だ。コーヒーゼリーの方だ。でもその本は・・・「手紙手帖 あのひとは、どんな手紙をくれるのかしら」。えっ手紙?そうか、この方も手紙好きなのか。私が勝手に思い描く彼女像もどんどん骨格ができてくる。直筆の手紙を愛する、木下綾乃さんのように純粋で可愛らしい心をもった女性なのだろう。ぜひ彼女からも、手紙を書くことの何たるかを教わりたい。こちらも迷わずカートに入れる。今回の買い物はこの2冊だ。
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本日、届いた本を受け取り、さっそく読む。まずは木下綾乃さん。手紙は友達だという彼女の手紙への接し方が微笑ましく、マネしたいことがたくさんある。ファンレターか、いいなぁ、そういうの。よし、自分も恥ずかしがらずに、ファンレターを贈ろう。
次に、木村衣有子さん。手紙の書き方の基本レクチャーから、ホストカードのお店、手紙についての本の紹介・・・。とここで、見覚えのある名前、それもつい最近見た名前が目に留まる。「木下綾乃」。あぁ、今読んだ手紙生活の・・・て、ここで繋がるのか!
文中では、木村さんが木下さんに宛てた手紙と木下さんからの返事、そして「手紙が書きたくなったら」の紹介までも。手紙好きの二人の女性が、それも私の中では別々の、きれいな文章を書かれる二人の文筆家さんが、こうして一冊の本の中で繋がった。別々の好きの対象が最終的に一か所に収束するという、なんとも不思議な感覚を味わった。こういうことがあるから、読書って面白い。
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手紙を書くという行為を、もっと気軽に。肩に力を入れず、なにより恥ずかしがらずに。だけど、ただ自分の「伝えたい!」を押し付けるんじゃなくて、読み手である相手を考えながら。ただ送るだけでそれなりにびっくりもされ、印象に残る手紙だからこそ、攻撃力のある手紙だからこそ、最低限のマナーをわきまえつつ、大切につきあっていきたい。