自由設計の賃貸住宅に住む

賃貸住宅に住む価値を、考える。

 

よく見かけるのが、「購入」と「賃貸」どっちが得か?論争。分譲マンションを買うのと賃貸マンションを借りるのとで支出額がどう違うか、どっちにどのようなメリットがあってどのようなデメリットがあるかを比較する、というものが多い。そしてだいたいが、(仮に同じ大きさや間取り、場所の家だと想定した場合に)コストがより多くかかる方が無駄で、コストがかからない方が得、という結論に結び付く。あとは、買えば資産として残るのに対して賃貸は残らず、家賃をずっと払い続けなければならないものとしたり。

 

いま仕事で「自由設計のできる賃貸マンション」を企画しているので、このことを考えている。どっちが得かを決める決定打は、支払うお金というコストの大小なのか?資産として残ることが将来的にも良くて、資産として残らないのにお金を払い続けるのは本当に無駄なことなのか?そうじゃないだろう、と。

 

かくいう自分も、生まれてから就職するまでの約22年間、ずっと実家の戸建て住宅に住んでいて、家といったら一軒家、住むとしたら持ち家、賃貸マンションなんて、以前どんな人が住んでいたのかすら分からないようなところに安心して住めるわけがない、なんて思っていた。一日の大半を過ごす大切な場所なんだから、大家さんからの借り物じゃなくて、自分でこれがいいと思ったものに囲まれていたいじゃないか。そのためには、持つしかない。そして、マンションみたいに他の入居者とエントランスや廊下階段を共有するんじゃなくて、自分(および家族)だけが使うものがいいじゃないか。だからマンションじゃダメなんだ、と。典型的な戸建て志向の価値観だ。

 

しかしこの価値観も徐々になくなりつつあり、いまはマンションに対する偏見もさほどなくなってきていると思っている。例えば都心で合理的な価格で取得して住むことを考えるなら、戸建てにこだわって狭小地に肩をすぼめて暮らすより、土地を立体利用したマンションでゆったり暮らす方がいいに決まっている。それでもタワーマンションだとか100戸を超えるような大規模マンションに対してはいまだに拒否反応があって、「1万円あげるから湾岸のタワーマンションの最上階の住戸、もらってよ」と、言われることは絶対にないけれど、そう言われたとしても、たぶん断るんじゃないかと思う。自分の家に行くために絶対にエレベーターが必要なところで、洗濯物も干せなくて、外を見たら足がすくむような高さの場所で生活できるとは、とうてい思えない。だったら、一般的には管理組合が健全とは見られないけれど、総戸数4戸5戸の小規模なコーポラティブハウスで、自分も25%なり20%の決裁権をもって生活する方が有意義に違いない。

 

持ち家と賃貸と、どっちが得か。それを決めるのは少なくとも自分の場合、支払うコストの多い少ないではない。もし自分が大金を払って住宅を取得するんだったら、それこそ先のことまで考えて決断すると思う。そして、なにより住み心地を優先するだろうから自由設計じゃなければならない。将来売るときに売れやすいように、最大公約数的なことも考えなければ、という視点は、今も昔もあまりない。一方、いまのように賃貸暮らしを考えたら、まず契約を解約することで引っ越すことができるような身軽さがあるのだから、その時に気に入った物件に飛びつくことができる。あまり言い方はよくないけれど、飽きたら、引っ越せばいい。そうやっていろいろなところに住みたいと感じる時期は、家賃は多少高かろうが、賃貸を選ぶ。

 

家賃を、ただ住んでいるだけなのに払わなければならないものだと考えるから、資産として残らないのに払い続ける=無駄、となってしまう。住宅ローンなら払い終わりがあるけれど、賃貸は住み続ける限り払うもの。だから無駄、とか。でもそれはおかしい。賃貸だって、自分がそこを気に入って、ここじゃなければだめなんだという価値がそこにあって、かつ何か生活スタイルに変化があって転居しなければならないことになっても身軽に移動できるのであれば、その場所を提供している大家さんに対する「ありがとう代」として払い続けられるだろう。もし自分で持つことを考えたら所有権登記して、固定資産税も払って、銀行からお金を借りて、金利をのせて返して、というようにそれこそ多くのお金がかかる。その負担を免除させてもらいながら住まわせてもらっている、その対価だと考えれば、「払いたくないけれど仕方なく払っているもの」から「ありがとう、払います」と考え方が変わると思う。だいぶマイノリティな考え方なのだろうけれど。

 

そういう考えの人が増えれば、新築分譲マンションがどんどん供給されて、一方で築年数の建った賃貸マンションの空室が多くて大家さんが困る、という状況も変わってくると思う。

 

「愛ある家賃」(※)を払えているといういまの自分の状況に感謝しつつ、いま仕事で取り組んでいる「自由設計のできる賃貸マンション」の良さを広めたい。「既存の間取りの中から選ぶ」という賃貸住宅探しの常識を超えて、賃貸なのだけれど、建物が完成する前に設計に関与することで自分の好きな間取りを実現できる。そんなことができたら素敵でしょう。人生の中のほんの一時期に住む場所でしかないのかもしれないけれど、そういう場所だからこそ、自分のうちに秘めている「こういう暮らしをしてみたい」「こんな家だったら楽しいのに」を自由設計によって実現すれば、そのほんの一時期が人生を大きく揺るがすかもしれない。

 

(※)愛ある家賃

賃貸住宅生活実態調査 リクルート住まい研究所

論考 愛ある家賃(石神夏希) が参考になります。

http://www.jresearch.net/house/jresearch/chintai/index.html

 

ダウンロードできます。

http://www.jresearch.net/house/jresearch/chintai/pdf/P111-158_chapter3.pdf

 

■自由設計のできる賃貸住宅を、自由が丘で企画しています。

http://01-office.co.jp/chintaiproject/intro.html