自宅から駅に向かう途中に、小さなカフェがある。店主が一人で切り盛りしているらしいそのカフェは、自宅のすぐ近くにあるにも関わらず、実はまだ行けていない。その理由は、好きなカフェが別にあるのであまり浮気みたいなことをしたくない、という変な意固地を抱えているからでもあるけれど、それ以上に、大通りから奥に入った静かな住宅地であるにもかかわらず、いつ店の前を通ってもお客さんが一定数いて、とても賑わっているように感じるからだ。普通だったら「繁盛しているなあ」「きっと美味しいコーヒーなのだろうな」と感じて行ってみようと思うであろう事情。それを理由に足が向かないという、天邪鬼な自分だ。
そのカフェのことを教えてくれた知人からは、「店主は話が上手なんだよ」と聞いた。なんでも、カウンターに座ったお互い初めましてのお客さん同士を繋げるのが抜群にうまいのだという。美味しいコーヒーを淹れる技術だけでは足りなくて、コミュニケーションの力が試される仕事なのだろうと思った。
とすると、数席しかないカウンターに常時お客さんを集めるその店主はどんな人なのだろう。もしかして魔法使いなのではないか、と勝手に想像する。ドラゴンクエストで例えるところの「ラリホー」(相手を眠くさせる)なのか、「ルカニ」「ルカナン」(相手の警戒心を解きほぐしてガード(守備力)を下げる)なのか、はたまた「バイキルト」(相手の生きる力(攻撃力)を高める)なのか。分からないけれど、厨房からお客さんに向かってそっと呪文を唱え、操っているのではないか。
そんな奇妙な想像をしながら、店の前を歩いている。窓から店内を横目でちらっと見る。店主がコーン型の帽子をかぶり、杖をかざしているように見えた。内心、その呪文にかかりたいと思っている自分がちょっと恥ずかしい。