強くなるだけではつまらん

他人に教えることの大切さに気付いたのは、漫画「バキ」を読んだおかげかもしれない。漫画は子供が読む娯楽だ、というのは一方向からの視点に過ぎない。ひょんなことから、自分の仕事がやりがいのあるものとなり、ひいては、生き方を指し示す道しるべになることがある。

 

海王が集まる「大擂台賽(だいらいたいさい)」というイベントで、寂海王が言う。「強くなるだけではつまらん」。自分が強くなるためだけに修業を積むのではなく、そこで得たことを後進に伝えようとする。「最強の男になる」ことを目指すバキの世界において、利他とも感じられる寂のこの言葉は異色で、心に刺さった。そうだよな、自分だけ強くなったところであまり意味がないよな、と思う。子供が友達におもちゃを貸さずに自分だけで抱えていても面白くない、というのと本質的には同じだ。

 

寂海王の言葉はそのまま、私が平日、大学で働くモチベーションにもつながっている。教員ではなく事務職という立場なので、実際「指導している」わけではないけれど、学びの機会を確保する手伝いをしている、と考えれば、やっていることはそう遠くはない。そして、後進の学生に自らの学修成果を伝えようとする先輩がたくさんいる。「自分が学び、得るだけでは意味がない」後輩にノウハウを教えようとする学生もきっと、寂海王と同じ考えを持っているに違いない。