幸運

「病と障害と、傍らにあった本」を久しぶりに読んだ。文筆家の鈴木大介さんは、脳梗塞を発症し、その後遺症で記憶障害や認知障害などの高次機能障害が残ったのだという。「本が読めなくなった」生々しい記録を読んで、同じく脳梗塞を患った自分を振り返る。自分の場合は後遺症もなく、1週間の入院だけで済んだ。退院後は、ほぼ何事もなかったように日常を過ごしている。そして、本当に「何事もなかった」ように感じつつある自分に気づき、ぞっとした。

 

何事もなかったのは実はものすごい幸運で、一歩何か歯車が狂えば違う結果になっていたかもしれない。いまの自分の状況は「あり得ない」くらいの可能性で、一生分の運を使い果たしたと言っても良いくらいのことかもしれない。それなのに、そのことに気づかぬまま今日までなんとなく過ごしてきていたことにはっとし、恥ずかしくなった。本が読めなくなるような障害が生まれる可能性だって、もっと言えば命にすらかかわる可能性だってあったのだ。

 

発症したという点では、幸運ではなかったかもしれない。ただ、その後の経過を冷静に振り返ると、「これ以上何を望むの?」というくらいの幸運と言って良いだろう。もう少し自分の境遇を謙虚に受け止めなければ、と思った。