二足の草鞋

二足の草鞋を履く。素敵な言葉だと思う。二本の刀を操る二刀流、と表現しても良いだろう。

 

本業と呼べるものの他に、別の生業を持つ人。そもそも決まったひとつの「本業」と呼ぶものがなく、複数の生業を持つ人。一つのことの専門家であることの例えとして「職人」という言葉があるけれど、その対極にあるような人。一つのことにこだわらずに手を広げる。それはたまに「二兎を追うものは一兎を得ず」という言葉で表現されるようにネガティブな意味を持つことがある。しかしいま私はこの言葉を前向きにとらえている。最初から一兎しか追わずにいるより、二兎を追った方が良い。一兎しか追わなかったら一兎しか得られないけれど、三、四、五兎を追ったら一兎を得るかもしれない。

 

自分の仕事の話だ。昔は「わたしの仕事は端的に言って、これだ」というものを見つけて、その分野での専門家、プロになることを目指していた。しかし社会人になって10年が過ぎ、15年が過ぎ、専門技能と呼べるものが自分にはないのではないか、という不安に襲われることになる。であれば、この分野、という大きめの核は持つものの、その中で複数のことを学びながら取り組んでみよう、というように方針転換するようになった。基本、行き当たりばったりな人生だ。

 

これまで経験してきた仕事を全て忘れて一からやり直すつもりは、ない。リセットはしない。建築、住宅、インテリア、本、というように扱う対象が変わっても、それらを通して暮らしを快適にするサポートをしたいという想いはつながっていて、地続きだ。ビシッと区切ってさぁ気を取り直して、という感覚はあまり持っていない。いままでやってきたことも、最近始めたことも、一緒に続けていく。二足でも三足でも草鞋を履いて、自由に動きまわれるようでありたい。