好きな10%

外出自粛のムードを言い訳に、外に出ないで一日家で過ごした。金曜日の夜に土曜日のやることを決めたのだけれど、できていない。寝違えたのか、ちょっと首が痛く、また頭もずきずきと痛む。外は冷たい雨。明日には雪に変わるかもしれないという。ひんやりとした空気は身を引き締める一方、外へ出て身体を動かそうという気を削ぐ。久しぶりに降った、思いのほか多い雨を窓越しに見ながら、そういう日もあると自分に言い聞かせ、ぼーっとしていた。

 

こういうときは不思議と、自身を変えるような刺激的な本を読んだり、興奮するような音楽を聴いたりすることさえも、気が進まない。ご飯を食べて、横になって、悪いと思いながらも甘いものを口にする。せいぜいが、注文して届いた中古本(エッセイ)をパラパラとめくってその文体をなんとなく味わうくらいだ。まるで建設的でない。でもそんな過ごし方を、そうすることでちょっとでも感染拡大防止に貢献しているのだ、と思うことで正当化している。

 

「見えないものに、耳をすます」(アノニマ・スタジオ)で、音楽家の大友良英さんを知った。NHKの連続テレビ小説「あまちゃん」のテーマ曲を手掛けた方だ。元々知っているか、「あまちゃん」を当時普通に楽しんだ人は知っているであろう音楽家を、医師・稲葉俊郎さんの著書だからと手に取った本で知った。他者へのアプローチが、他人とちょっとずれている。

 

その音楽はとびぬけて明るく、軽く、力をもっている。こういう音楽が世の中には必要であり、自分もまた必要としていると強く感じる。

 

大友良英さんはこの本の中のインタビューで、好きな音楽と嫌いな音楽は何ですか?と聞かれ、正直な胸の内を語っている。その言葉に、なにも、よりたくさんの音楽を好きになろうと努める必要はないんだ、と肩の力が抜けたような気がした。

 

本当のことを言うと、今現在、世の中で流れている音楽の九割は苦手なんです。

街で流れている多くの音楽は苦痛でしかなく、なので正直に好き嫌いを言ってしまうと友だちを失いかねないので、普段はあまり言わないことにしています。とはいえ一割も好きな音楽があるってことはむしろすごいことかと。

 

世の90%の音楽をなんとか好きになろうと意気込んだところで、意味がない。自分にとって好きだなぁと思える10%に(もしかしたら1%かもしれない)たどり着くことと、その何に好きと感じる要素があるのかを発見することが、大切なのだと思った。 

 

見えないものに、耳をすます ―音楽と医療の対話

見えないものに、耳をすます ―音楽と医療の対話

 

 

こういう楽しい音楽、音が出た瞬間にわっと空気が湧くような音楽、これがまさに、自分にとっての好きな10%の音楽だ。

 


坂本龍一+勝井祐二+ユザーン+大友良英 - あまちゃん オープニングテーマ @ フェスティバルFUKUSHIMA! 2013