学びへの推進力

内田樹「コモンの再生」を読んでいる。刺激的なのは「本当に必要な政策は『教育の全部無償化』」という話。昔は大学の授業料が安かったから学生は苦学できた(親に反対されても、「じゃぁ自分で金出すから、もう口出ししないでくれ」と言うことができた)。その後学園闘争を経て、政府が学生を抑え込むための監視役を親にアウトソーシングしようとして、授業料を上げた。進路選択の決定権が親に移ったため、学生は「本当に心から勉強したいこと」ではなく親が賛成する将来の仕事に役立つ実学を勉強するようになる。その「モチベーション」の低下が日本の大学の学術的生産性の低下につながっている、というものだ。

 

教育者が学生に期待していることは「何を学ぶか」でも「どのように学ぶか」でもなく、「自分が本当に学びたいと心から思うことを学ぼうとする姿勢」にあるのだと知った。自分で学ぶことを自由に選択した学生が、(そんなの勉強したって将来のためにならないと)反対する親に対抗する最も効果的な方法は、それを学んで社会に役立て、「ほら、自分の選択は正しかったでしょ」と言うことである。学生自ら、自身の選択の正しさを証明するための動きこそが、学びへの推進力になる。だから学生は、自分の身体に潜んでいる「学びへの推進力」の存在をまず信じて、自由な選択をすることによって加速させることが大事なのではないか。

 

 子どもが不本意入学を強いた親に「進路選択を誤った」ことを思い知らせるための一番有効な方法は「ああ、金をどぶに捨てた」と親に後悔をさせることです。だから、毎日不機嫌な顔で大学に通い、成績は最低レベル、卒業したけれど、何一つ知識も技能も見識も身につかなかった・・・という事実を親に見せつけることが不本意入学生に許された最も効果的な報復なんです。だから、子どもたちは現にそうしている。

  いま、日本の大学の授業料がどこもすべて本当に無償だったら、子どもたちはみんなそれぞれ好きな専門分野を選ぶはずです。無償化の最初の受益者は「好きな学問ができる」子どもです。でも、それだけではありません。日本社会そのものが受益者になる。

 

 子どもたちが親や教師の反対を振り切った自分の選択が正しかったことを証明する方法は一つしかありません。それは、毎日機嫌よく大学に通い、よい成績を取り、専門的な知識や技術を身につけて、「ほら、ここに入学して正解だったでしょ?」と胸を張ってみせることです。

 

社会人である自身にもあてはめてみる。お金を払って(親に払ってもらって)学ぶという立場はとうに終えて、働き方を自分で自由に選ぶことが当たり前の立ち位置にいる。ということは。親の監視もなければコストの肩代わりもない自分が、「選択の自由」を行使して学びへの推進力を加速させることを怠ってはダメだろう。「正直、行動には不安もあるけれど、自分の選択が正しいということを、結果をもって証明するんだ」という気持ちが、行動へのモチベーションになるのだと思った。

 

自分で選び、その正しさを証明するために努力する。そのことを意識する年にしたい。

 

コモンの再生 (文春e-book)

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  • 作者:内田 樹
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