幸福論

いま、目の前を過ぎていく出来事を、もっとゆっくりと、冷静に、見つめることができるなら。そういう時間を自分に与えてあげられるくらいの心の余裕があるのなら。これから、自分がこうしようと思っていることが、果たして自分にとって正しいことなのかと、ふと立ち止まってじっくり吟味することを忘れずにいたら。のちに後悔する生き方をしてしまうリスクを、多少なりとも減らせるんじゃないかと思う。

 

「心の余白」「忙しすぎてはいけない」「おのれに鞭を打つのはやめよ」これらの言葉が自分にしみるのは、きっと、自分がそういうことを言ってもらって、慰めてほしいからだ。「自分は心に余白がないくらい目の前のことに忙殺されていて、大変なんです」「自身を顧みる余裕がないのは、仕事で忙しく、またうまくいかずに悶々としているからなんです」「それでも自分に鞭を打って、なんとか頑張ってるんです」という自分の内なる言葉を誰かに聞いてほしいからだ。頑張ってるんだね、と認めてほしいからだ。

 

もしかして、自分の内なる声を聞いてくれる他人が、ここにいるのかもしれない。自分のことを肯定してくれて、自分のこれからの動き方を冷静に考える手段を差し出してくれるのかもしれない。そういう期待を抱くことができるという点に読書の意義があり、期待を抱かせるという役割を担ってくれているという点で、自分には作家さんが必要なのだと思った。

 

自分の心に余白を持たせること。そして、長年付き合っている自分の心が発した小さなシグナルを、見逃さないこと。それを、大事にしよう。

 

幸福論

幸福論

  • 作者:若松 英輔
  • 発売日: 2018/02/23
  • メディア: 単行本