再会

仕事の合間の空白時間。駅前を歩いていたら、目の前の定食屋さんから出てきた男と目が合った。うん?どこかで見たことがあるような、と考えるより先にその男の名前が脳に浮かび、一瞬にして過去にタイムスリップした。全然変わらないその優しい風貌に、安心する。3秒くらい無言で見つめあっただろうか。突然のことにも関わらず、あまりに冷静で、たいしたリアクションもなかった自分に驚いたのは、後になってのことだ。

 

10年くらい前、北海道に行くと言って急に姿を消した、大学時代の研究室友達がそこにいた。北海道へ行って農業をやる、と言ったのだったか。突然何を言い出すのかと突っ込むよりも前に、彼は本当に発った。それ以来、メールしても返事が来ず、つまりは音信不通になった。研究室の同窓会をやろうということになっても連絡が取れず、正直に言うと消息不明。このまま今後会えないのか、なんて不安すら感じたまま約10年が過ぎる今日、突然の再会に、なんだか拍子抜けした。びっくりしても大声を出さなかったのは、心の中で「きっとそのうち会えるんだろう」と期待していたからなんだと、いまになって思う。

 

定食屋に入った彼は、目の前でもたもたするおばさんにしびれを切らし、食べずに出てきたところだったという。そもそも、人と会う約束が急遽遅い時間になって、たまたまぽっかり時間があいて定食屋に行こうと思ったのだとか。一方自分は、事務所を出たときに、ご飯食べに行こうか、それとも近くの担当工事現場を見に行こうか、一瞬迷った。迷って、駅前の本屋に行ってからご飯を食べようと思って、駅の方へ向かった。途中、交差点の青信号が目の前で点滅し、走ったら渡れたかもしれないけれど、急いでもないし、と思って諦めた。信号を待ち、ゆっくり歩いて、たまたま定食屋の前を通った。そしたら会った。

 

もし、定食屋でもたもたするおばさんがいなかったら。彼のそのあとの約束時間が予定通りだったら。一方、自分がご飯を食べるより先に担当工事現場に行っていたら。そうでなくても、信号を急いで渡っていたら。どれか一つでも違う行動をしていたら、会わなかったであろう状況に、二人して感動し、これは奇跡だと言い合った。

 

 

空の向こうに神様がいて、定食屋に入る男と、事務所を出る男を、鳥の目で眺めている。その距離が徐々に徐々に近づいていき、一方が止まったり、ゆっくりになったりするのだけれど、最終的にぶつかる。そんな様子を、「こいつらは再会するようになっているんじゃな、ほっほっほっ」なんて笑いながら見ているんじゃないか。そう思えた。

 

人と会うことに運不運があるとしたら、自分はきっと運がある方だ。