背中を押されて

出会いがあれば別れもある。そんなことは最初から分かっている。けれど、いざその時が来ると、なんだかなぁ、どうしてみんなして自分の周りから離れていってしまうんだ、と暗い気持ちになる。そんなことが立て続けに起きた。

 

美容院のマスターから閉店を聞かされていたお店に久しぶりに行ったら、入り口の扉に閉店を正式に知らせる貼り紙があった。「やっぱりか・・・」覚悟はしていたはずなのに、どこか心の中でウソであってほしいという淡い期待が残っていて、それさえ打ち砕かれたことにショックを受け、数秒間扉を開けることができなかった。14時過ぎでもほぼ満席。この繁盛ぶりが、休日の昼間だからという理由だけでなく、近くその幕を降ろすからという理由もあるんだろうなぁと思うと、余計に寂しさが増す。なんでここ最近、立ち寄れなかったのだろう、と自分を責める。

 

これとはまた別のところで、今日、旅立ちを切り出された。驚きを通り越して「はぇ?」という間の抜けたリアクションしかできなかった。こっちでやりたかった夢を実現できて、そのうえでの決断だということなので、当然自分にはその決断をやめさせることはできない。なんだぁ、寂しくなりますね。そんな当たり障りのない返事しかできない自分が、相変わらず情けない。

 

ずっとその関係が続くと思っても、そんなことはありえない。自分にだって、新しいステージへ進もうと決断してそれまでの場所から離れたことがある。そういうとき、引き留めてもらえるようでありたいと思いながらも、やっぱり「行ってらっしゃい」と祝ってほしい。だから自分も、いやいや、そういうの勘弁してよ、と寂しさを表明する一方、相手の決断を称え、応援できるようでありたい。そう思ってこれまで過ごしてきたはずなのに、なんだろう、この心のザワザワした感覚は。

 

立て続けに起きた出来事をいつもの美容院のマスターに打ち明けたら、「それを聞かされた時、なんて言いました」とあっけらかんと聞かれた。「『寂しくなりますね』って、言いました」「別れたくないんですよね」「そりゃぁ、まあ」「だったら、そのことをきちんと伝えるべきですねぇ。松浦弥太郎さんだったら、きっとそうしますよね」簡単に言う。自分がどれだけチキンか、よく知っているはずなのに。しかしその言葉で、そうだよな、気持ちは伝えるべきだよな、と勇気が湧いてくるのだから、自分はなんて単純なんだろう、と思う。簡単に言うとマスターに背中を押された感じだ。