O:オロビアンコ -orobianco-

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そのイタリアのブランドを、バッグからではなく、腕時計から知ったというのは、たぶん私くらいではないだろうか。

 

実際、バッグが発祥のようだし、世間でこのブランドのものを見るときはたいてい、バッグだったりする。イタリアの国旗のストライプが入ったリボンがアクセントになっていて、しゃれている。そのバッグを持つ男性を街で見かけると、ハイセンスな人なんだなぁ、と勝手に想像を膨らませてしまう。

 

しかし、私がそのブランドに最初に惚れたのは、腕時計を見た時だった。たぶん「PANGOLO」が最初だ。シンプルな文字盤に、ナイロン製のベルト。そして、決して安くないブランド時計にはあまり見られない、カラフルなカラーバリエーション。ひと際存在感を放っていたように見えた。

 

それから「SPIRITO」や「ORAKLASSICA」、「NOBILE」など、特徴的でかつかっこよい腕時計をいくつも発見し、虜になった。光り輝いているんだけれど、決して「俺様は高級時計だい」と威張ったような印象はなく、ギラギラもしていない。素朴でストレートな印象を、持った。

 

何年前だったか、池袋の百貨店で「RettangOra(レッタンゴラ)」を買った。orobiancoでは珍しい、四角形のフォルム。これでオトナの男に少しは近づけたんじゃないか、と自分を酔わせ、鼓舞した。まだそれほど仕事にも慣れず、テンパりながら日々を過ごしていた時期だったと思う。仕事がうまくいかないストレスを、こういうかっこいいものを買って、形から身を整えるという方法で発散させていたあたり、いま考えると短絡的だったなぁとも思う。けれど、まぁそうすることで自分の気持ちを高ぶらせて今に至るのだから、決して失敗ではなかったのだろう。

 

ある冬の日。営業で外を歩いていたら、道路に張った氷で足を滑らせ、思いっきり転んだ。左半身を下にして倒れた私の身体と道路との間に挟まれた左手首には、相棒。その顔のきれいなガラスが、思いっきりアスファルトにぶつかった。転んだ恥ずかしさはすぐに消えて、相棒を傷つけた罪悪感に変わった。あんな嫌な気持ち、二度と味わいたくない。

 

すぐに修理屋にかけこみ、ガラスを更新した。けっこうな時間を経て再会した相棒に、「もう二度と君を傷つけない」なんてラブソングの歌詞に出てきそうな言葉で誓いをたてたのも、忘れられない思い出だ。