御茶ノ水とLEMON

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よく行くダイニングのマスターにすすめられたことがきっかけで、ある作家さんの銅版画展に行こうと思い、仕事終わりに御茶ノ水に駆け込んだ。案内のポストカードを見ると午後6時30分までとある。御茶ノ水駅についたら午後6時。ぎりぎり、セーフだと思った。

 

地図を見ながらギャラリーへたどり着くも、入口にカラーコーンが立ちふさがっていて中に入れない。立て看板もカバーを被っている。なぜだ?と不思議に思いながら手元のポストカードを確かめる。「祝・最終日は午後5時まで」。うん、明日が最終日だから、今日は最終日ではない。ゆえに今日は午後6時30分までだ。それなのになぜだ。「祝・最終日」。うん、今日は最終日ではない。それに土曜日だし、祝日でもな・・・おっ!!!とここで、今年は土曜日と祝日が重なることが多い不幸な年なんだ、というニュースを思い出し、そして今日がその不幸な日のひとつ、建国記念の日であることに気づいた。御茶ノ水に来る前に気づけよ。「土曜日=祝日ではない」なんて短絡的に考えて今日が祝日かどうかも頭に入っていないことが、問題だ。

 

目当ての銅版画展は明日また来れば良いとして、それでも、今日ここまで来たことを無駄にはしたくない。ということで、銅版画展のあとにぎりぎり閉店前に駆け込もうと思っていた画材屋に、早めにたどり着いた。ゆっくりできたから、結果オーライだ。

 

「レモン画翠」その美しい名前に惚れて、また建築の学生たるものここで道具を揃えてエスキスに模型製作に励むべきだ、と教えられた覚えがあり、学生の時に訪れた。御茶ノ水のイメージは、楽器屋の街とか、学生の街とか、お茶の水女子大とか、東京医科歯科大とか、いろいろあるけれど、自分にとっての御茶ノ水との出会いは、やはりレモン画翠だった。店内の鉛筆や絵の具、スケッチブックの紙などの匂いが、好きなのだ。

 

エスキスに必死だった学生時代を思い出し、そしていま自分は社会人として設計事務所で仕事をしているにも関わらず、学生当時のエスキス帳と向き合っていた頃の気持ちを忘れてしまっていたことに気づき、急にエスキスがなつかしくなった。目の前にあったクロッキー帳に思わず手が伸びたのは、当時、自分のセンスのなさにげんなりしながらも、自分の頭の中で思うように建築をつくりだした快感を、また自分の頭の中によみがえらせたいと思ったからかもしれない。

 

12年くらいぶりに手にしたクロッキー帳が、今日御茶ノ水に来たことが失敗ではなかったのだと、言ってくれているように思えた。御茶ノ水はレモンのように酸っぱく刺激が強いが、同時にレモンのようにきれいで、清潔で、優しい。