ハンス・J・ウェグナーの家具に惚れた。GE290の一人がけソファからは、最高級の贅沢な時間を自宅で過ごせるのではないか、と思うほどの心地よさが伝わってくる。そしてサイドボードのRY25やRY26も圧巻。なにひとつ無駄なものがなくて、何年たってもデザインが古びないとはこういうものを指すのだと心から思う。
そこからスタートして、興味の対象は北欧のデザインへと広がった。いままで何の気なしに見ていて「かっこいいなぁ」と思っていた程度のものが、実は北欧の国で生まれたものだと最近気づいた、というものがたくさんある。北欧のデザインにピンとくるアンテナが、昔からあったのだろうか。
デンマークのデザイナー、アルネ・ヤコブセンを最初に知ったのは、いつのころか忘れてしまったけれど、最初はそれほど気にならなかった。デンマークの人であることもしらなかった。「バンカーズウォッチ」を見た時だって、12個の小さな四角形のうちの一つが黒く塗りつぶされたデザインを、シンプルだなぁくらいにしか思っていなかった。しかし、ハンス・J・ウェグナーからアルヴァ・アアルト、ヤコブ・イェンセンと興味が広がっていくうちに、ようやく注目するようになる。そうか、アントチェアやセブンチェアをデザインした人なのか、といまさら言ったら、大学で建築を勉強したということを笑われるだろう。
黒く塗りつぶされた四角形の並びを遠くから眺めると、らせんを描くように、スーっと時間が流れていく感覚を味わえる。時間を確認するたびに、この不思議な感覚を意識できるなんて、素敵なことだ。
自分にとって良いデザインとは、第一印象で「これはかっこいい!」とビックリし、その魅力に一瞬でのめり込んでしまうようなものよりも、最初はそれほど印象に残るものではなかったのだけれど、何度か見るうちに「あれっ、これ、好きかも」と思うようになり、だんだんその魅力にハマっていく、というものにあるのかもしれない。10年20年、そしてそれ以上、と永く使うことができるものとの出会いは、きっと衝撃的な一目惚れではなく、時間を経て徐々に好きになっていく、その時間経過がもたらしてくれるのだと思った。