地下鉄大手町駅。東西線と丸ノ内線との連絡通路に、素敵な文房具屋がある。ノイシュタットブルーダー。最初は読めなかったし、読めても空で言えるまでに時間を要した。何語なのかも、不明。だけどこれがとにかく楽しいお店なのだ。自分の好みと並んでいる商品のセンスとが一致する、といったらおこがましいのだけれど、とにかく琴線に触れるものが多く並ぶ、お気に入りの文房具屋だ。ビジネスマンの通行も多く、店内も小さいこともあり、すこしお客さんがいるとキツキツでのんびり見ていられないのがたまにきず。
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この文房具屋には本もあって、小さな本コーナーには丁寧にセレクトされた本が並ぶ。この本のセレクトのセンスが、とにかく抜群なのだ。そう思いながら、じゃぁセンスとはなにか、センスの良さを身につけるにはどうしたら良いかを、考える。
あいさつ上手に。会社では敬語で。薦められたことは試してみる。知るより考える。美術館に行く。ひとつひとつは当たり前のことで、いままで読んだ著書での著者の言葉から得たこととなんら変わりはないのだけれど、だからこそ重要で、そうやって丁寧に毎日を重ねることで、センスが身につくのだと知った。もう、「おれはセンスがないからなぁ・・・」と投げやりになるのはやめようと思った。
この文房具屋のすごいところは、ただ自分が好きな作家さんの本が多数並んでいるという点だけではない。例えば、この文房具屋で本をセレクトしているひとは、松浦弥太郎さんのことが本当に好きなんだな、と感じる。それは、松浦弥太郎さんの本の傍らに、ジャック・ケルアックの「路上」と、ヘンリー・ミラーの「北回帰線」という本があったからだ(うろ覚え。どっちかしかなかったかも・・・)。
というのも、松浦弥太郎さんの著書ではたびたび、彼が大好きで何度も何度も読むという特別な二冊の本が登場する。彼はこの本をいつも人生の傍らに置き、それを読むことで勇気を得てきたのだという。それが「路上」と「北回帰線」なのだ。
- 作者: ヘンリーミラー,Henry Miller,大久保康雄
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1969/02/03
- メディア: 文庫
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好きな著者の本があるだけでなく、その著者が好きで読んでいると公言している本を一緒に並べている。このこだわりが、すごいと思った。「この人の本、いいなぁ」と思って読んでいて、その中で出会った別の本を読む。こうして好きが繋がっていくのが、楽しい。
では、私は・・・。本屋をやっている松浦弥太郎さんが「正直この二冊があれば十分」というほどなのだから、きっと面白いんだろうとは思うのだけれど、でも手に取るまでには至らなかった。理由は二つある。一つは、彼にとって最高の本であっても、自分にも同様にそうであるとは限らないと思ったから。そしてもう一つは、もし読んで「いいなぁ」と思って人生のバイブルになったら、それこそ彼と一緒になってしまい、自分らしくないんじゃないか、と思ったからだ。彼の本から学んだ「素直に」という言葉どおり、一旦は真似してみればいいのに。まだまだ素直じゃないなぁ。
自分にとっての、いつも傍らに置いておきたい大切な一冊、というものを持ちたい気持ちはやはりあって、それはなんなのかを考えている。これだ、という一冊は実のところなくて、何冊か大切な本があるといった具合だ。「これだ!」という一冊に出会えるために、ある本から別の本に出会う、という経験を大切にしたい。