完成までのプロセスが非常に面白い賃貸住宅があり、その完成お披露目会に招待頂き、参加してきた。練馬区は平和台。木造3階建て、総戸数8戸のいわゆる賃貸マンション(マンションという表現はあまりフィットしないけれど)。このプロジェクトが面白いのは、あらかじめ入居者を募集して決めてしまい、内装の一部を入居者が選べるという点。壁の塗装、キッチンの天板材、そしてトイレのアクセントクロス。このクロス(壁紙)については、入居者自ら貼る。だからジョイントが目立ったり、雑だったりする。だけどそれでも入居者は大満足とのこと。「自分がつくった」ことによって、単に賃貸住宅に住むという感覚を超えて、より所有意識を持つことができる。賃貸なのに。
共用部の床材から植栽まで、いたるところにオーナーの願いが込められている。「経年変化を楽しむ」暮らし。通常、材質の劣化は嫌がられる。でもそれは劣化ではなく成長ととらえる。通常、落葉樹を植えると、落ち葉の掃除をしなければならないから嫌がられる。でもその掃除、落ち葉集め自体を楽しいイベントにしてしまう。いろんなことが、通常と違う。その違いを楽しんで、成長していく、暮らしづくりがなされている。だから面白い。
今日、仕事でお世話になっている方と門前仲町で食事をした。串カツ屋でゆっくり飲み、牛すじ煮込みを食べる。
いま仕込んでいるプロジェクトについて話すと、的確なアドバイスをくれる。「3パターンの事業手法を比較して、その中でこれが一番メリットありますよ、というように話をもっていきたい」と言うと、「じゃぁそれに対してこう言われたらどうする?」と切り返してくる。それはいままで思いもしないことだった。こういうデメリットも一方ではありますね、という説明をして、それでもこれが一番です、という説明ができないと、まるで説得力がない。そう気づかせてくれた。
よく言うことだけど、自分ひとりの能力には限界がある。仕事のほとんどは、他者(同僚だったり、上司だったり、他社だったり)との協力のうえで成り立つ。一人ではなんにもできない。自分にとってやりがいのある仕事をするために、他者とのつながり、そこで入ってくる情報を、大切にしたい。
コーポラティブハウスといえば区分所有。そういままで考えてきた。自分の思い通りに設計して、分譲マンションでは実現できない自分らしさを住まいに落とし込む。それができるのがコーポラであり、だからこそ終の棲家としてずっと住み続ける「所有」という形態をとるべきだ、と思っていた。賃貸は常に「退去」を前提としているので、身軽である一方、そこに手間暇をかけて自分らしいアレンジを加えることは難しい。どうせ数年したら引っ越すんだし。そう思っていた。
そんな賃貸住宅でも、実はこんな面白い取り組みができる。あらかじめ入居者を集めてしまって、自由に設計する。退去する前提であっても、そこに住んでいる間は自由設計の家を満喫できる。なにも区分所有に固執することはないんだ、と思った瞬間に、一気に視野が広がった気がした。
他者とのつながりや、情報をいかしながら、いままでやったことのないプロジェクトを企てたい。そう思った。