修行

 いつもの美容院。もはやマスターとはつうと言えばかあの仲。ぼくがあえて「相棒の寺脇康文さんみたいな髪型にしてください」と言わずとも、要望を察し、素敵にカットしてくれる。大学を卒業して、就職して千葉に来て、最初に住んだマンションの1階にあるこの美容院。社会人歴と同じってことは、学生時代の友達よりも付き合いが長いことになる。

 

ラーメン大好きなマスターとのバカ話に、他にも客がいることを忘れて大声で笑ってしまう。いい休日のリフレッシュだ。髪の毛と一緒に体内の老廃物も落ちていくのを感じる。

 

マスター「最近どこ行きました?」

 

ぼく「あっそう、隣の原木だけど、最近行きつけのカフェというかダイニングがあるんだ。そこに夕べ行った。ホタテのパスタと、自家製ケーキを食べた」

 

「へぇ~、いいじゃないっすか。なに贅沢してるんすか(嫉妬)」

 

「いやいや、給料日後だったんで。ラーメンだと、杏樹亭ね。ぼくの社会人としての原点。部屋探しでこっち来て、初めて来た思い出のラーメン屋」

 

「いいっすねぇ~。ぼくの好きなラーメン教えましょうか?それはね、ベビースター」

 

「はぁ?ベビースター?」

 

「そう。うちの場合、おでん食べたらつゆにベビースター入れるの。美味しいよ」

 

「・・・」

 

しゃべるととにかく気さくで、決して自分の力を誇示しない人だけど、実はすごい人だというのは、何度も会えば分かる。電話対応、客へのスタッフのつけ方、交代の仕方、そして飽きさせない話術。髪を切るという本来の目的以上の、いわゆるサービスというものを見ているようだ。機転がきかずにあたふたする自分には到底真似できない。

 

周囲を見ず、がむしゃらに仕事に打ち込んだんだろうな、きっと。そういう時期のことを「修行」というんだろうな。

 

修業論 (光文社新書)

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