数学の答えは一つか

計算が合わない。合わないというか、複数の見解が生じる。それはおかしい。学生時代、算数や数学は比較的好きだった。最大の理由は「絶対的な正解が一つあるから」。その絶対的な正解さえ探せばいい。それがどんなに難しくても、探す過程に面白さを感じた。ある日突然「この計算問題の答えは5つあります」と言われても困る。

 

午前中で仕事が終わり、昼過ぎに自宅に戻ってのんびりしていた。ふと本棚を見ると、ギチギチと本が無造作に詰まっていて居心地悪そうだった。読み終わった本、買ったはいいが全く読まない本、買ったことすら覚えていない本など、いろいろ混じってて本にとっても好ましくないだろう。これらの本を古本屋に売りに行こうと思い立った。

 

バッグ二つに50冊くらい詰め込んで、近くの古本屋に車で向かう。ここぞという時に頼りになるカーシェアリング。祝日で若干混んでる道をかき分け、着いた古本屋で査定をお任せし、待ち時間に久々に「刃牙」を立ち読み。やっぱりこれは男のロマンだ。いつ読んでも興奮する。

 

もともとあまり期待していなかったものの、提示された買取金額のあまりの低さにビックリする。「○○円ですが、いかがいたしましょうか?」このタイミングでいかがいたしましょうかと聞かれて、希望金額に届かないからやめます、という人が果たしているのだろうか。50冊も査定してもらって「やっぱやめた」とはとても言えず、OKを出して店をあとにする。そこでふと冷静に頭の中で計算をしてみる。

 

カーシェアが15分200円。予想以上の混雑で若干長びき、結果約1時間で800円。約50冊の本の買取金額が650円くらいだったから、差し引き約150円のマイナス。もし本を売るためだけに外出したのだとすると、本を売って150円の損失がでた計算になる。しかし、この計算は明らかに間違っている。

 

【理由1】

本の買取以外にも収穫はあった。デミオに乗って道路を走って少し爽快な気分になったし、しばらく行ってなかった場所に新しい建物が出来ていたことも発見した。なにより久々に「刃牙」を立ち読みして、寝ずに読みふけった昔にタイムスリップできた。

 

【理由2】

カーシェアの800円は現金払いではなく、約1ヶ月後のカード引き落としだ。だから今日単独のキャッシュフローを見ると、650円が財布に入った事実はあっても、800円が財布から消えた事実はない。よって150円の損失ではなく、650円の利益だ。(さらに、この800円が来月引き落とされるカード支払総額に占める割合は微々たるもので、気分的には来月の引き落としに影響を及ぼさない。たぶん)

 

【理由3】

自室から50冊の本が消えたことによるスッキリ感の対価は、少なく見積もっても150円は超える。不要な本、資料に埋もれた部屋にいると仮定して、もしそこにランプの魔王でも神龍でもなんでもいいけれど、現れて「願い事を一つ叶えてやろう」と言ってくれたとしたら、相当の本、資料を処分してくれとお願いするだろう。そして、そのお礼として対価を請求してきたとしたら(ないはずだが)、150円ならあげてもいい気がする。

 

【理由4】

古本屋への商品提供に微力ながら貢献した。さらに、売った本を手にとってくれる人がそれを買うことでお金が動き、微力ではあるが日本経済の好転に寄与した。

 

こうして650円の利益を得たと思いこんだ私は、帰りがけにお気に入りのケーキ屋でミルフィーユとチョコレートケーキを買い、自宅でそれはそれは優雅なひとときを過ごした。結局買取金額はスイーツとなって胃袋におさまったが、決して後悔はしていない。無駄あってこその人生だ。数学に答えが複数あることを今日知った。