火葬と偽薬

2月11日。土曜日。


近頃のマイブーム、演劇鑑賞。


思い立ったが吉日。


ちょっと興味をもつようなものがあったら、とりあえず行ってみよう。


観終わった後のあの「後味」を求めて。



①「火葬」


休日の下北沢はやはりアツい。普段ファッションに無頓着で、おしゃれにはほとんど頭を悩ませない自分にとっては、かなり刺激的な場所。道行く人のきらびやかさにめまいがする。専門店は、決して気軽に入れる空気ではない。重たい空気が店全体を支配し、まるで店員が「入ったら買えよな」と脅してきそうな雰囲気。みんなにとっては違うんだろうけれど、ぼくにはそう感じてしまって仕方ない。唯一気軽に入れるジーンズメイトでさえ、2〜3分ウロウロしてすぐ出てきてしまった。そう、ここはぼくにとって特殊なまち。


その下北沢駅前のスタジオに、らくだ工務店「火葬」を観に行った。


http://www.rakuda-komuten.com/next.htm


河相我門、大路恵美、林和義と、豪華俳優陣。学校で教師達が体育倉庫に突然閉じ込められる。生徒によるイタズラか?教師それぞれが教師としてのルールと戦いながら、体育倉庫からの脱出方法を探る。いったい誰の仕業?そして目的は??


観終わったあとの「後味」は・・・なんかよく分からなかった(笑)最後はすごい衝撃的だったんだけど、「結局カギかけたのは誰だ?」とか「結局どういうこと?」とか、分からない点が多々あった。まるで奥歯に魚の骨が、それも超極太の鯛の骨がつまったような感覚を味わった。


ぼくの教師・・・なにより記憶に残っているのが、小学校高学年の時の担任。若い体育会系のその担任は、クラスメート全員から恐れられる鬼教師だった。普段はとても面白いのだが、ひとたび怒ると小学生相手に平気で怒鳴る。自分自身、何度泣かされただろうか。あれ以来、若い男の担任には恐怖心しかない。


果たして生徒ひとりひとりに目を配り、生徒のSOSを見抜くことができる教師は何人いるだろうか。そう考えると、聖職とも言えそうな教師という仕事が、いかにデリケートで、いかに難易度が高いかが分かる。その教師の教え方ひとつで、生徒の頭脳だけでなく人格をも左右してしまうほどの影響力があるのだから。小学高学年時の担任の怖さも、中学の剣道部顧問の真面目さも、高校3年間の担任の大ざっぱさも、全てがいまの自分を少しづつつくりあげている。



②「プラシーボ」


後味の悪さを引きずりながらシモキタを後にし、今度は上野に向かう。おしゃれなまちから渋いまちへ。このギャップがまたいい。スタジオは、大通りから町中に入った静かな場所にあった。


LUG HUB 旗揚げ公演「プラシーボ」 http://www.lug-hub.com/


聞きなれない単語だが、意味は「偽薬」。本物の薬のようだが、薬としての成分が入っていない、文字通り偽物の薬のことだそう。偽薬を本物の薬だと信じ込むことによって自己暗示がかかり、実際に薬としての効き目がでるという「プラシーボ効果」なるものがあるのだそうです。


「流れ」に乗って新しい道へ進もうとする。やりたいことが見つからず、ゲームばかりして友達を落胆させ続けている男が、友達に助けられながら、新たな「流れ」に乗ろうとする。「自分の意志で行動して後悔する分には諦めがつくけど、行動しなかった結果後悔するのは、責任転嫁も諦めもできず、タチがわるい」「決断せよ」「流れに乗れ」「小さな枠の中だけで考えるな」言葉のそれぞれが、まるで自分に対して説教しているかのように響いた。自分のこれからについて悩んだり、不安を抱いている人にとっては、人生の指針になってくれそうな作品。もう一度観て、再度台詞を咀嚼すると、もっとその指針が明確になってきそう。場面ごとに円形のステージが回転する演出が面白かった。「ジムノペディ」「亡き王女のためのパヴァ―ヌ」など、好きな音楽も散りばめられていて、シビれた。なかなか難易度が高い旗揚げ公演。


後味は決してよくないけれど、この心臓を揺さぶった振動がたまらなくやみつきになるんだ。