お笑い芸人に学ぶ読書

1月21日。土曜日。


金曜日の夜、週末がやってくるという解放感からひとりであそんでしまい、毎回土曜日の午前中は使い物にならなくなる。自宅の近くにできたのをいいことに、最近行き始めたラウンドワン。カラオケで声を枯らし、一週間のストレスというか灰汁を蒸発させる。GLAYの「SAY YOUR DREAM」とか「SPECIAL THANKS」とか「恋」とか、LUNA SEAの「FOREVER&EVER」とか、こういう麻薬のようなシビれる曲は、あんまり友達と盛り上がりたいときに歌うような曲じゃない。4曲中2曲は10分超の長い曲なので、そもそもそういう場で歌うとうっとうしく思われる危険があるし。でもこういうのを周囲をはばからずに一人で歌うと、なかなかどうして体中の老廃物が抜けていくような錯覚に陥る。夜明けに寝て、起きたら16時。これにはさすがに凹んだけど。貴重な休みをこんなに無駄使いしたのは初めてじゃないか??


夕方、ふらっと立ち寄った本屋で、発見。



お笑いコンビ「ピース」の又吉直樹。「お笑い界きっての本読み」である彼による、フリーペーパーで連載していたコラムをまとめたエッセイ集。


「ピース」を初めて知ったのは何年前だろう。何の番組だったか、ジョンレノンの「イマジン」をBGMに「想像してごらん・・・辛くなく、茶色くない、白いカレーを」「・・・シチューです!!」なんていうネタを見て、なかなか面白いと思った。でも、あまりテレビにでてない人たちも含めて、それこそ数えきれないほどいるお笑い芸人のうちの一組くらいにしか思ってなかった。それでも先日、彼が、お笑い界に限らず世間一般人の中でも群を抜いた読書量をもつ読書家であるということを知り、一撃で心を奪われた。なんでも太宰治が大好きだそうで、テレビ番組でモデルの本田翼ちゃんに即興でラブレターを読んだその文才に、久々に背筋が凍りつくような感覚を味わった。何気なく見ていてお笑い芸人に嫉妬したことなんてかつてあっただろうか。


そんな本書は、いわゆる書評かと思いきや、そうではなく、自分のエッセイを中心に書いている。そのことについて著者は、「はじめに」で、このように言っている。



「自分のような人間が人様の書いた作品を勝手に紹介するなどという厚かましい行為が許されるのだろうか?という自問もありました。(中略)僕の役割は本の解説や批評ではありません。僕にそんな能力はありません。心血注いで書かれた作家様や、その作品に対して命を懸け心中覚悟で批評する書評家の皆様にも失礼だと思います」



こんなことを言うお笑い芸人がいるだろうか。自分もこのブログで読書カテゴリなんてつくり、書評家気取りで読んだ本なんかを紹介してたりするけれど、そのことについて、彼のようなことはほっとんど考えていなかった。いかに自分が自分の行動に芯を持っていなかったことを不意に思い知らされ、悔しさとともに、彼に対する尊敬の気持ちがより強くなった。



中身だが、上記の理由から、本についてただ論じるんではなくて、それに関連した自分の体験談などを語り、その体験と読書の体験をシンクロさせている。その考え方がすごい新鮮で面白いと思った。そしてなにより、本をたくさん読んでいる人が書く文章は読みやすい。本をたくさん読んでいる人が書く文章には、そういう本で吸収した表現が紛れていて、面白い。前述の即興ラブレターの臨機応変力にもうなずける気がする。



貴重な週末。24時間のうち約半分を寝て過ごすなんてムダはもうやめよう。