知識

「本を読まない人はサルである」これは、マイクロソフトの元社長・成毛氏の言葉である。この本を読みながら、「確かにそうだよな」と感心したものだった。小学生の時の担任の先生が(何年生の時の担任かは忘れた)給食の時間かなんかに、「人間と動物との決定的な違いはなんだと思う?それは、『理性』だ。人間には『理性』があるけど、動物にはそれがない。だから動物は道端で人目をはばからずに小便をしたりするけど、人間はそうしない」と言っていたのを思い出す。ヒトには『理性』があるから知識を吸収して賢くなることに対して好奇心を持つけど、サルにはそれがない。だから本を読むのは当たり前だ、と。正論である。その言葉の迫力に押されて、サルになりたくないぼくは、小中高時代の極端な読書離れ期の遅れを取り戻すべく、古本屋で買った文庫本で本棚を埋めていく。


「自分の仕事の成果に直結した本を読もうとする限り、視野が狭くなって成長しない。仕事に関係ない、一見無駄なものをバランスよく読むことが、長期的には仕事の成果につながる」そんなニュアンスの言葉もなんかの本で読んでなるほどと思った。ぼくは建設営業の仕事をしているから、雑談や余談が客との会話を盛り上げて受注につなげる潤滑油のようなものになるということに対しては異論はない。でも、その潤滑油を買うことが第一優先かというと、そうは思わない。そう感じた決定的な出来事が今日あった。


午前中、仕事で耐震改修工事を行う施主のところへ契約書について説明しに行った。契約という重要な行為のための打合せだから、それなりに質問にも答えられるように事前準備をしたつもりだったが、甘かった。全然思ってもみない質問をされ、一瞬で自分の無知を悟り、比較的暖かかったにもかかわらず寒気が体中に流れた。


一応今年で入社5年目。契約行為自体は初めてでもなんでもなく、傍からみたら知ってて当然。でも、知らなかった。「すみません、勉強不足でわかりません。確認します(汗)」なんて言ったものの、ぼくが相手の立場だったら、その営業マンを疑う。施主もそれ以上突っ込んでこなかったけど、もし揚げ足をとるような相手だったらと思うとゾッとする。


「仕事に直接関係ない、一見無駄な本をたくさん読む中で、長期的には仕事に役立つ」これだけを見たらこれは明らかに誤りだ。正しくは、「自分の仕事に直結する商品知識を知っているというのが前提で、それにとどまらず」ときて続かなければならない。「そんなのいちいち言わなくても当たり前だろ」と言われればそれまでだが、その当たり前のことを忘れてしまうくらい、「一見無駄にみえる本を、読みたいときに読むこと」に夢中で、今日やっと目が覚めた。


「法律に関することはその専門の部署に聞けばいい」「構造上の問題は構造設計に聞けばいい」「施工的なことは工事部に聞けばいい」確かにそれも一理ある。まず一人の人間が理解できる容量には限界がある。それに、営業は日常的に工事現場にいるわけではないから施工方法は監督に聞くのが一番だし、建設業法を暗記して質問にすべてこたえられるほどの暗記力がぼくにあったら弁護士にでもなってみたいと思う。しかし一方で、建築に対して素人の施主から見て、建設会社の営業マンが建築物がどうつくられるかを知ってるのは当然だろう。ぼくは会社の中では施工については知らない方だが、施主から見たら、例えば全く別の会社、例えば商社だとか自動車メーカーの役員クラスよりも、建設会社の新入社員の方が建築に関して詳しいと思って当然。そんな当たり前のことに、今日改めて気付かされた。


営業の成果に結びつく要素は商品知識だけじゃないけど、そもそも知識がないことで論外、となってしまうこともあるかもしれない。以後気を付けます。