空想絵画

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以前イベントで知り、好きになった絵描きさんが初めて個展を行うということで、東林間のギャラリーへ行ってきた。そのギャラリーは、家族の紹介で知った小さな家。住宅地に入り、本当にここであっているのかと不安になりかけたところで突如、現れた。家族と一緒でなかったら、本当に入っていいのだろうかと躊躇するくらいに、普通の家だ。

 

「ライブペイント」イベント会場で大きなキャンバスに絵を描き始め、その日のうちに完成させる。周囲の視線という、集中力を削ぐであろうものがあるにもかかわらず、黙々とキャンバスに色をつけていく。背中には撮影自由、むしろ大歓迎という貼り紙を貼っている。そのいさぎよさに感動したのがきっかけだった。「空想絵画物語」という名前のとおり、彼の絵は、いったいどういう世界なんだろう、と空想させる。夢の世界にいるかのような、ふわっと心が浮き上がるような気持ちになる。絵を見ている時くらい、現実の色眼鏡を外して自由にイメージするのもいいなぁと思う。

 

小さなギャラリーの壁全面をふさぐように並んだ絵は、混沌としている。絵描きさんが、ヴィレッジヴァンガードとか、ドン・キホーテとかが好きで、そういう店のような雑多感を出したかったのだという。月並みな表現だけれど、たくさんある絵の中から宝物を探り出すような、そんな感覚だった。もっと踏み込んで言うと、他の人はもしかしたら関心を持たないかもしれないけれど、自分だけはその絵の良さが分かる、自分だけがその絵をきちんと読み解くことができる、そんな一枚を探しているような感覚だった。読書が、自分だけが読み解くことのできる一冊に出会うための営みであるということと一緒だなぁ、と思い、それを教えてくれた本をふと思い出した。

 

私たちが手にしなければならないのは、世に広く知られた本ではない。「私」だけが読み解くことができる世界にただ一冊の本なのである。

(若松英輔「言葉の贈り物」亜紀書房)

 

出会ったのは、手紙をポストに投函しようとする謎の男の絵。自宅の本棚に置いてしっくりくるであろう予感というか確信があった。「何考えてるのか分かんないよ」もしかしたら他人にはそう思われるかもしれないけれど、でも筆まめで、直筆の手紙でコミュニケーションをとる、そんな男性像にあこがれている。そんなあこがれを、あこがれで終わらせないために、椅子に座って本棚を見た時に一番よく見える場所に置いたら、ちょうど「自分にとっての読書とは」を教えてくれた本があって、わぁ、ってなった。

 

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