本と実体験とを結ぶエッセイ

吉祥寺に、本のセレクトが好きでよく行く小さな本屋がある。先日、その本屋の店主が自分のことを「常連さん」と認識していて、また来てくださいね、と言っていたということを人から聞き、胸にしみわたるものを感じた。「常連」その言葉から私はいつも、「俺さまだい」という上から目線で傲慢な態度をイメージするので、自分はそうはなりたくないという思いから一定の嫌悪感を持ちながら、一方で、よく来てくれるお客さん、と覚えられているということは、すなわちその本屋に対する好意が届いたような気がして、まるで片思いの女の子に告白して好意が伝わったときのように、嬉しい気持ちにもなる。自分の場合はその後者の気持ちが勝って、ますますその本屋のファンになり、そして今日もその本屋で本を買うために吉祥寺へ向かった。

 

instagramのポストを見て気になっていた本が、岡本仁「続々 果てしない本の話」だ。正直に白状すれば、「一般発売よりも少し早めの入荷です」という誘いにつられたのも事実。だけどそれ以上に、本が次から次へと登場するエッセイ、という構成に惹かれた。本に限らず、音楽でも、ドラマでも、雑貨でも、何でもいいのだけれど、そういうものと実体験とを結びつけるエッセイ形式の文章を、すらすらと書けるようになりたいとずっと思っている。日頃なにか体験したときに、「あれ、これ以前観たドラマと同じ状況じゃないか?」「この気持ち、誰かの曲の歌詞にあった気がするな」と思いを巡らせるその過程に、なにか快感をもたらす物質が含まれている気がする。

 

本屋に着き、店主に挨拶し、本棚を眺め、あったあったと目当ての本を手に取って、帯を読む。雑誌「アンドプレミアム」の連載をまとめたものであるということを知ったのは、その時だった。「アンドプレミアム」は、定期購読とまではいかないまでも、好きで比較的買って読んでいる雑誌だ。でも連載のことは知らなかった。目には入っていたかもしれないけれど、意識して読んでいなかった。「岡本仁さん、いいですよね」レジで本を渡した際に店主にこう言われてドキッとし、正直に「この方、知らないんです。アンドプレミアムは好きでよく買って読んでますけど」と言ったら、店主は「そうですか。私は逆に雑誌の方は読んでないんですけれど」と笑った。ひとつの本へのたどり着き方も、人それぞれなんだな。

 

第19話「好きな曲で踊る人々」を読んでいて、まさにいまの自分の境遇と重なった気がした。手に取った本が実は雑誌の連載をまとめたもので、その雑誌を現に自分は何冊も持っている。それでも「なんだ、連載をまとめただけか」と落胆することもなければ、ましてや、家に帰れば大半は読めるんだから買わない、とも思わず、むしろ買わないという選択肢に全く気付きもしなかった。きっとそれは、その本を単なる「文字情報の羅列」としてではなく、本と実体験とを結びつけたエッセイというコンセプトに基づいて編集された「モノ」として魅力を感じたからに他ならない。無名の人が踊っている写真集「DANCING PICTURES」や、テーマに基づいてinstagramにポストし続けた写真をまとめたアンディ・スペードの写真集が、明快なコンセプトを持っていて面白く感じるのと同じように。

 

帰宅して、本棚から「アンドプレミアム」を引っぱり出す。連載、あったあった。普通にここに同じことが書いてあるネ・・・なんてちょっと寂しくもなったけれど、読む媒体によってそのエッセイから得るインパクトも違うのだということを、身をもって感じた。

  

続々 果てしのない本の話 (アカツキプレス)

続々 果てしのない本の話 (アカツキプレス)