なんとなく好き

いつものカフェでコーヒーを飲む。タンザニアの、苦くて舌に沁みこむような味に、中毒になりつつある。特に用事はなくとも、いや、特に何も用事がないからこそ、立ち寄って、ただのんびりと空虚な時間を費やすことで、休日を消費しているのかもしれない。土曜日の話。これが浪費でなけば良いのだけれど。

 

 

以前、手作り市で出会った消しゴムはんこの作家さんが個展をやっているということで、最終日、恵比寿に行ってきた。自分より少し年下。そんな彼女は社会人になってすぐに会社を辞めて、自分が本当にやりたいことを探してはんこをつくる作家になった。会社での仕事が続かなかったこと、そのことにコンプレックスを感じているのかどうか本当のことは分からないけれど、おそらくはネガティブな感情を次の自分の情熱へと変えて、ひとりで作品をつくり続けている。そのパワーを、個展でもらえた気がした。

 

オリジナルの蔵書票がかわいらしい。蔵書票を知っている人がそもそも少ないですよね。ただでさえ知らない人が多いのに、オーダーでつくっちゃうんですか。そんな方には初めて会いました。蔵書票を通じて心が通い合った気がして、なんだか嬉しかった。蔵書票ってチェコが発祥なの?そんな話をうっすら聞いてウィキペディアで見てみたら、プラハ出身の画家によって紹介されたのだと書いてありビックリ。チェコ好きのはんこ作家さんと蔵書票にこうした繋がりがあったとは。

 

自分にとっての「なんとなく好き」を、ただなんとなくで終わらせるんじゃなくて、突き詰めて考えていくことが大事なんだろうなぁと思った。美術の大学教育を受けていたわけでも何でもない。それでも絵を描くことが好きで、文章を書くことも好きだった。だからその「好き」を組み合わせて、自分らしい作品をつくる。彼女の蔵書票を自分の本に貼り、それを大切に読み続けることで、彼女のようなパワーを身に着けることができはしないだろうか。

 

 

このカフェのコーヒーが本当に好きなんだな。そう思えるコーヒーに出会えて本当によかったと思う。他のコーヒーを知らないくせに。世の中もっと美味しいコーヒーがあるかもしれないのに。そう言われるとも思うけれど、でも他の、もっと美味しいコーヒーに出会うためにいろいろ飲み歩く、といことはあまりしたいとは思わない。こうして家で言葉を書きながら、脇には美味しいタンザニアコーヒーがある。なんて贅沢な時間。自分の「なんとなく好き」の一つがコーヒーを飲みながら文章を書く時間だということに、改めて気づいた。この時間を、もっと濃密に。