電車と音楽とイヤホン

通勤やそのほかの移動などで電車に乗ることが多い。通勤に片道1時間、往復2時間とすると1週間で10時間。1か月で40時間。年間にすると・・・と考えていくと、決して無視できるレベルの時間ではない。その時間を無駄に過ごすか有意義に過ごすかは、大きな差となって現れる。そうは思いながらも、現実的にはなかなか有意義と言える時間は過ごせていない。

 

スマホをいじるのはなんか好きじゃないのだけれど、かといってずっと本を読んでいられるかと言うと、そうもいかない。眠い時も多いし、その日手元にある本に関心がわかない時だってある。ではどうするか。イヤホンをつけて音楽を聴く、ということに逃げがちである。隣で同じく音楽を聴いている人の音漏れが気になってそれを紛らわせるため、ということもある。でもそれ以上に、音楽を聴きながら目を閉じてさえいれば、そう短くもない時間を退屈せず過ごすことができるから、そうしている。ただこれも問題があって、最近やめようと思うようになった。

 

 

以前、乗っている車両のトラブルで急遽途中の駅で車両交換をすることになり、途中駅で全員一旦降りなければならないことがあった。それをアナウンスする車内放送を、その音量を上回る音楽を聴いていた自分は聞くことができず、降りなさいよ、と見ず知らずの方に肩を叩かれて気づいて慌てた。それ以来、車内放送が聞こえないような音量で音楽は聴くべきでないと思った。

 

その教訓も忘れかけてきた昨日。電車内で目を閉じて立っていて、ふと目を開けたら、目の前に座っている方が自分を見て口を動かしていた。慌ててイヤホンをとったら、「後ろの席、空きましたよ」と、丁寧に教えてくれていたのだった。「あぁ、ありがとうございます、大丈夫です」なんてやりとりをしてその場は終わったけれど、多分あの時自分は音楽を聴きながら目を閉じていたから、彼女の厚意にしばらく気づかなかったのだと思う。もしイヤホンで耳がふさがっていなかったら、すぐその声を聞くことができたはずだった。

 

そのあと、別の電車に乗り換えて帰宅する直前。目の前の座席が二席分空いた。もうすぐ降りるからと座らずにいたら、隣に立っていた女性二人組がこっちを気にしながら座ろうとする。空席のひとつが立っている自分の目の前だったから、二人で座るのをちょっとためらったのだと思う。私が「どうぞどうぞ」と言ったのだけれど、その時聴いていた音楽がサビで佳境だったこともあり、女性の丁寧な「ありがとうございます」がちょっと視界に入っただけで、その声も聞かず、無視して目を閉じてしまった。電車を降りて、ずいぶん不愛想なふるまいだったなぁと気づいたときには、電車は行ってしまっていてもう遅かった。

 

 

だいたい、街中でイヤホンつけて音楽を聴いている人を見て良い印象を抱くことなんてない。6~7割くらいの確率で音漏れは聞こえるし。でも、自分もそう思われても当然なことをしているのだと気づいた途端、無性に恥ずかしくなった。音楽は好きだし、通勤時間以外でアルバム1曲分の音楽をゆっくり聴く時間が一日のうちあるかというとあまりないから、通勤時間は貴重だったりする。それでも、イヤホンをつけていたがために外からのアプローチに対する反応がにぶくなってしまうのだとすると、それは避けたい。

 

ひとまず、イヤホン持ち出し禁止にしてみようか。やってみて、禁断症状が出るようだったら、音楽との付き合い方を見直すべきだ。大好きなロックバンドのライブを2本立て続けに観た、幸せすぎるくらい幸せな年末に、音楽との付き合い方を改めて考える。