本屋での本の買い方

本屋での本の買い方が、定まっていない。「一回に一冊しか買わない」と心に決めて本屋に入り、その一冊を入念に選ぶこともあれば、気になる本を数冊同時に買うこともある。周期があるというよりは、そのときの気分、気まぐれで変わる。

 

今日はたくさん買いたい気分だった。いつもの本屋で、気になった本を4冊手にとった。文庫版小説、ビジネス書、新書というように、書式もジャンルもバラバラ。そのうちの一冊、「なぜ、あなたの仕事は終わらないのか」を、行きつけのパン屋でコーヒーを飲みながら、読んだ。

 

なぜ、あなたの仕事は終わらないのか スピードは最強の武器である

なぜ、あなたの仕事は終わらないのか スピードは最強の武器である

 

 

ここしばらく、ビジネス書とは距離を置いていた。「そこから学ぶべきものなんてない」なんて上から目線で言っているのではない。自分が仕事ができないということは自分が一番良く分かっているから、仕事術という名の説教をされると気分が悪くなる。それに、例えば本棚に「スピード仕事術」という文字を見たら、自分がスピードのない仕事をしている人間だと思い知らされるようだし、「論理的に話す方法」という文字を見たら、自分の喋り方が支離滅裂であると思い知らされるようだから、嫌だ。しかし、その考えも一周して、仕事に役立つこともあろうから、そこから一つでも吸収して実践できたらいいな、と思うようになった。

 

仕事をきちんと終わらせるには、締切を意識してスタートダッシュをかける。締切直前に焦って徹夜して目を真っ赤にしながら「すみません、もう一日ください」というのではなくて、6割7割の出来でもひとまずすぐ終わらせて出してしまう。それから、10割を目指して調整する。当たり前のことだ。当たり前のことを、当たり前のようにできるようにしなければと思った。

 

 

昨日。たまたま財布を見たら、小銭が432円だった。よし、仕事帰りの駅前の本屋、ここで432円以内で本を買おう、と思った。定価400円の本なら、税込でちょうど432円だ。そう思って文庫コーナーに行って棚を見てまわったら、意外と400円以下の本が少ない。10分ほどうろうろして、ようやくこれだ、と決めて手にとったのが、川上未映子「乳と卵」だった。432円也。ちょうど持っている小銭ぴったり支払った時の、この達成感はなんだ?

 

乳と卵(らん) (文春文庫)

乳と卵(らん) (文春文庫)

 

 

著者は名前は知っていたけれど、作品は初めてだったので、好奇心で。豊胸手術に取りつかれてた女性と、しゃべらずノートに言葉を書いて伝える娘の話だって。

 

電車内で読み始めて、2ページ目ですぐ違和感を感じた。一文一文がとっにかく長い。「~であるから」「~のであって」「~のだけれど」と、丸がなかなかやってこない。私はいままでずっと「一文が長いのは分かりにくい悪い文章」と思っていたから、 これにはびっくりした。最初だけかと思ってページをパラパラめくったら、どのページもほとんど改行がない。薄い本だから一気に読めるぞ、という心意気が、みるみるしぼんでいった。

 

のちに、この作品はこの文体が特徴なのだと知る。流れるような、語りかけるような、なめらかな言葉の羅列が良いのだとか。芥川賞までとっている。それなのに、私にはなにかズシっと重たいものを感じる。

 

この本がきっかけで、「一文が長いのは分かりにくい悪い文章」というのは自分がそう思っていただけで、常識でもなんでもなく、固定観念に過ぎないのだと知った。評価される作品が必ず快適に読めるとは限らないということも知った。豊胸について語る母の話と口をきかない娘の日記が交互に登場し興味深く、先が気になるから読みたいのだけれど、読み終わるのにものすごい時間がかかりそうだ。