ぼくらの近代建築デラックス!

 大学時代、先生に口酸っぱく言われた言葉がある。「建築を見に行きなさい」だ。学生はヒマなんだから、実物の建築を実際に足を使って見に行って、空間を体験しなさい、と。誰もが同じように言うので、もしかしたら、騙されたと思って建築行脚の旅にでもでたら、それだけで建築設計者になれるのかもしれない、と一瞬迷いもした。しかしそこは出不精で、天邪鬼な学生。ヒマ人、最高!と言わんばかりに先生の忠告を無視して、その関心の矛先は建築ではなくクラシックギターへと向かっていた。

 

時を経て、いま、奇しくも設計事務所で仕事させてもらってるので、こんなこと言ったら叱られそうだ。いま、この忠告を無視して出不精を貫いたら、プロじゃない。いろんな建築を見よう。いろんな建築を味わおう。知ってて当然、見たことあって当然、という人が周囲に大勢いるから、「無知=やる気あんの、アナタ」となりかねない。学生時代に外へ出なかったこと、実在の建築を訪ねることを怠ったことだけは、後悔している。

 

二人の作家さんが、好きな近代建築を見て歩き、あれこれ語り合う旅日記。彼らの知識の泉の広さ、深さが半端ない。こういう方が近代建築のなんたるかを語り合ったりするものだから(そしてその本が「オレも見に行こう」と思わせるに十分なほど面白いから)、劣等感を感じる私は、いつも出来もしない決意をさせられる。これが「出来もしない」で終わっては困る。本書で紹介してる近代建築、まずは「東京散歩」の中からで良いので、行ってみようと思う。特に、ライオン銀座7丁目店(ビアホール)の内装を設計した菅原栄蔵の話は興味深い。決して恵まれてはいない環境にいることを、旺盛な向学心でカバーして、大プロジェクトをやってのける。見習いたい。超下戸な私には入りづらい建築ではあるが。 

 

ぼくらの近代建築デラックス!

ぼくらの近代建築デラックス!