雲の上

仕事。論理的で慎重に見えるクライアントとの打合せは、自分がどう説明したらよいかを考えるきっかけになるという点で勉強になる。ちゃんと用意しておかないとあとで間違いを指摘される。確信のないことをあやふやに言うと「それで?」と聞き返されてさらに窮地に陥る。不思議なことに、自分にとって説明しづらい点、それは即ち自分が十分に理解しきれていない点なのだが、そういったことに限って質問されたりする。別に自分を必要以上に大きく見せるようなことはしたくないが、少なくとも「コイツ大丈夫か?」と幻滅されるのは嫌だ。正しいことを、正確に、ゆっくりと、簡素に。不安なところには、触れない。で、その場で解決できなければ、潔く宿題にしてしまう。こういったことを意識させてくれる、質問をくれるクライアントの打合せは、勉強になる。

 

事務所の自分の机の背中には壁一面の本棚があり、膨大な量の本がある。大半はカタログやサンプルだったりするのだが、それでも設計事務所で働く以上知るべき知識の詰まった専門書や建築事例集も多い。これらを読むのも骨だが、たとえ読んだとしても、一級建築士の資格がとれそうな気がまるでしない。記憶力さえあればなんとかなる宅建でさえ、4回試験受けたんだ。一級建築士は・・・ねぇ。

 

振り返れば、設計がやりたくて建築学科に入ったんだった。それが設計演習で挫折して、燻った。学科フレンドの設計センスに、嫉妬を通り越して、「みんながみんなそんだけセンス持ってんなら、勝手にやってくれ。俺はそんな能力なくていいよ、違うところで勝負するから」と開き直っていた。当時、設計事務所に就職する学生なんてほんのひと握りだと言われていて、もちろん自分にとっては雲の上の存在だった。それが今では・・・ありがたい限りでございます。人生何が起こるか、まるで分からん(自分で行動を起こした結果だろう)。

 

図々しくも雲の上に乗っちゃった、その環境に加えて、質問をくれるクライアントや、壁一面の本など。人が勉強できる機会はいくらでもあるんだな。その機会に気づかずにいたら。そこで勉強を怠け続けたら・・・雲から落ちないように気をつけねば。