上機嫌道

「好きな女性のタイプは?」いろんな場面で聞かれることの多い質問だ。男同士でバカ話をしているなかでの起爆剤の一つであれば、そこからダイナマイトのように好みの女性の話に進展していって、それはそれで面白いとは思う。しかし、例えば男女の合コンとかで、会話が途切れた空気を何とかしようと、女子が男子にこう持ちかけてきたら、例えばぼくはどう応えたらいいだろう。よっぽど、「あなたみたいな人がタイプです」と言いたい誘惑に駆られるけれど、おそらく相手はそれを望んでいないだろう(なにより、ぼくにそんな度胸がない)。ましてや、本気で考えたあげく、マジ回答(例:いつも手料理をつくってくれる気がきく女性、人生相談にのってくれる器の大きい女性、等)をしても、あまりに現実的すぎて引かれそうな気がする。かといって、ラフに応えようとして(例:背が高くてスマートで美人、ちっちゃくてかわいい妹みたいな娘、等)もそれはそれで安易過ぎる気がする。女性を外見だけで判断する人だとカン違いされるのも困るし。だからこの質問に対する回答は簡単なようであって、実は非常に難しい。いっそのこと「好きなモー娘のメンバーは?」とか「AKBの推しメン(「いち推しメンバー」の略、好きなメンバーの意味らしい)は?」とか、「好きなNHKの女子アナは?」とか、具体的に聞かれた方が、まだ応え甲斐がある。


いまこの質問をされたら、たぶんぼくは「上機嫌な人」とか「愛想がいい人」と応える気がする。きっかけは、明治大学教授の斎藤孝氏の著書「上機嫌の作法」(角川書店)だった。これを読んで感じたこと、自分も上機嫌でありたいと思ったことを、4年前の会社の朝礼のスピーチでしゃべった記憶があるが、それ以来、自分が「上機嫌」を技化できているかと思うと、疑問である。



「不機嫌が許されるのは、赤ん坊と天才だけだ」この言葉に感化されて、少なくとも自分は不機嫌であってはならない、と思った。見るからに上機嫌で、機嫌が悪い姿が想像できない著者が言ってるのだから(テレビで両肩を回しながら体操している彼のどこに不機嫌の要素があるだろうか)、きっとそうなのだろう。イチローは不機嫌でもいい。変に記者団に愛想を振りまいて練習がおろそかになって成績が悪くなっても困る。でも凡人が不機嫌なのは、ただ不機嫌なだけで、それは周囲の空気をよどませる。空気をよどませるような人とはあまり付き合いたくない。だから必然的に、上機嫌な女性には好感をもつ。久本雅美が嫌いな人っていないでしょう?


今日もお世話になった美容室のマスターにしても、アシスタントの女の子にしても、いきつけのラーメン屋の店員にしても、やっぱり機嫌よさそうにニコニコしている人だと、それだけで気分がいいものだ。特に最近思うのが、ぼくの大好きなロックバンドLUNA SEAのギタリストのINORAN。10数年前のほとんどしゃべらなかった頃からは想像もできないくらい、いまテレビに出たりラジオに出たり、歌を歌ったりしている。雄弁なSUGIZOと寡黙なINORAN。そんな凸凹コンビと勝手に決めつけていたけれど、そんなものは、いまの二人には当てはまらない。いまのINORANを当時のぼくが見たら、あまりの嬉しさに卒倒したかもしれない。それくらいいまの彼は上機嫌で、見ていて安心するし、知ってから14年くらい経ついまも、あこがれのギタリストだ。



時化/INORAN


INORAN - raize (feat. SUGIZO) [Live @ LIQUIDROOM 2011.05.19]


そんな彼ら、彼女らを見習って、ぼくもいままで以上に「上機嫌を技化」させて、周囲の空気をよどませないようにしたい。特に仕事のキャパがすくないぼくはテンパり気味になって、この10月に入った新入社員の教育もおろそかになっている気がする。自分の仕事容量がもう少し増えれば、愛想よく後輩の面倒も見られるのだろうが、まだなかなかその域には達していない。まだまだ「上機嫌力マスター」への道のりは長そうだ。