美容院での会話2

大学時代、都市計画の研究室で卒業論文を書いていたぼくにとって、「まちづくり」というのはひとつのキーワードだった。といっても、「『まちづくり』って何のことを言うの?」と聞かれても明確に、そして簡潔に答えられる自信はない。たぶん一言で言い表せない言葉だと思う。というより、非常に範囲の広い、抽象的な言葉と言った方が近いか。「『まちづくり』とな何ぞや?」その答えに一歩でも近づくべく、インターンで訪れた大阪では、それはそれは一生モノの経験をさせてもらった。おばあちゃんが集まる集会所にクラシックギターを持込み、決して完璧に弾ける腕前は持っていなかったにもかかわらず、「クラギといえばこの曲だ」という固定観念に縛られて『愛のロマンス』を弾いて恥ずかしい思いをしたのを思い出す。なんだ、「『まちづくり』とは何ぞや?」なんてカッコつけて難しく考えることなんてなかったんだ。考えろ考えろマクガイバー、いやいや、いちいち考えるなマクガイバー。要するにこれが『まちづくり』なんだ。そう思って卒業論文を書くのがちょっとバカバカしく感じたのも、実はいい収穫だったのかもしれない。


前置きが長くなったが、そんな「まちづくり」にとって重要なキーワードが「地域コミュニティ」ぼくにとっての唯一の地域コミュニティである妙典駅前の美容院。だいたい以前住んでたマンションの1階にあってたまたまマスターと仲良くなったその美容院しか近所づきあいを持たないというのも、都会的な「閉じこもり」生活をあらわしているようで嫌だ。自宅でなんかの拍子に心臓発作でも起こして死んでしまった場合、あくる月曜日に会社に無断欠勤して連絡もできない状態になるまで発覚しないだろう。でも実際そうなんだからしかたない。


それにしても、そこでの会話はぼくの休日を建設的な時間にしてくれる。



ぼく(以下、「ストーカー容疑者」)「新しくできた学生マンション、入居者けっこう入ってるの?」


女性店員(以下、「Iちゃん」)「いますよ。結構見ますよ。めちゃめちゃかわいいですぅ」


ストーカー容疑者「まじで??それは見たいなぁ(デレデレ)」


Iちゃん「ホントですか?じゃぁ今度待ち伏せしてみたらどうですかぁ?」


ストーカー容疑者「それじゃ自分、怪しい人じゃん。ストーカーかよ!」



(中略)



マスター(以下、「ラーメンマン1号」)「ラーメン食べてます?」


ぼく(以下、「ラーメンマン2号」)「あっ、そういえば前回教えてくれた『鷹の爪』、あの後初めて行ってみたら、めちゃめちゃうまくて、ハマっちゃいました。この2か月の間に3回は行きましたね」


ラーメンマン1号「でしょ、あそこは美味しいんだよ。」


ラーメンマン2号「いやぁ、想像以上だった。鳳凰のDXしか食べてないんだけど、すごい。パーコーでしょ。で何より、茄子が乗ってるんすよ、茄子。『そうきたか〜』みたいな。なかなか茄子が乗ってるラーメンってないじゃないですか。これは完全に好きな店ランキング上位にランクインしました!」


ラーメンマン1号(めんどくさいので以下「1」)「ぼくは最近、女性の店員さんだと安心しますね。素朴で、『苦労してます』みたいなのがにじみ出てるとイイ(若干ディープ)」


ラーメンマン2号(めんどくさいので以下「2」)「そ、そうすか・・・」


1「毎日同じ時間に、美容院の前を通る女性がいるんですよ。それがめちゃめちゃ美人なんすよ」


2「まじすか。おんなじ時間に通るの?この辺に住んでるってこと?」


1「いやぁ、分かんないけど、たぶんこの辺で仕事してる人じゃないですか?でその時間に前を通って駅に行って帰るんじゃないかな?」


2「まじすか。見てみたいな・・・」


1「あと、あそこのコンビニの奥さん。めちゃめちゃいい感じの人なんすよ。挨拶すると、目を合わさずに照れくさそうに「どうも・・・」ていう感じがイイんすよねぇ」


2「そ、そうすか・・・それ言ったら、そのコンビニの店員さん、キレイな人いますよね。あと、めちゃめちゃいい声の人」


1「イイ声?どういうこと?声が低いってこと?」


2「いや、そうじゃなくて、こう「『いらっしゃいませ(セクシーな感じにモノマネ)』・・・あれ、全然似てねえな。マネ下手だな・・・」


1「そ、そうすか・・・」



(中略)



新人らしき兄貴(以下、「兄貴」)「名前は忘れちゃったんだけど、おいしい支那そば屋があるんですよ」


ぼく(以下、「ラーメン馬鹿」)「えっどこだ?」


兄貴「大通りまっすぐ行って、南行徳あたり。向かって左手。ラーメン屋が2件続けてあるところですね。前もラーメン屋だったところが、新しいラーメン屋に最近なったんですよ」


ラーメン馬鹿「あぁ〜、あの辺か。そうなんだ。新しくなってからまだ行ってないや」



・・・


何のオチもない会話ではあったが、その後で件の支那そば屋に行って濃厚支那そばを食したラーメン馬鹿。また好きな店ランキング上位にランクインしたのだから、決して無駄ではなかったようだ。