オーデュボンの祈り

「オーデュボンの祈り」伊坂幸太郎 新潮文庫


「えぇ、今更ぁ!?」な感じですが、好きな作家・伊坂幸太郎氏のデビュー作を紹介します。


コンビニ強盗を働いて警察から逃れた伊藤。気付くと彼は見知らぬ島にいた。わけもわからずにいる伊藤の目の前に現れる「日比野」という男。聞くとそこは、昔から外との交流を断つ閉ざされた島だった。そしてそこには、様々な不思議な住民がいた。絶対に嘘しか言わない画家。島の法律として殺人を許された男。唯一島外との交流ができる熊のような男。自転車を乗りこなす若者。そして未来が分かるしゃべる案山子。伊藤は驚きながらも、島民の話を聞いていく。


翌日、案山子が殺された。未来を予見できるはずの案山子は、なぜ自分の死を予見できなかったのか?そんな疑問を抱きつつ、伊藤は島民の話を聞いて歩きながら、島の秘密を解明していく。


一方、伊藤の元同級生であり、伊藤を逮捕した警察官・城山は、伊藤の元彼女の居場所を突き止める。狡猾な城山の魔の手が、伊藤を追う・・・



非常にシュールな空気感が漂う本作。


ガツンとくるようなストーリーではないにせよ、じわじわと来る何かがありました。


しゃべる案山子・優午が無残にも殺されてしまい、島の秘密を伊藤が突き止めていきます。


個性あふれる島民の話を聞きながら真実を突き止める、まるでドラクエのような進行で、面白い。


複数の語り手の進行が入れ替わりに進む感じ、このころからやってたんだ、とビックリ。


何より、何気ない会話の中にクスッと笑わせる要素がある点がいい。


伊藤「規則はあるのに予測はできない」
日比野「難しいことを言う奴だな」


伊藤「ジューサーに果物を入れると、ジュースができる。みかんを入れるとみかんのジュースができるし」
日比野「バナナの時もある」
伊藤「そうするとバナナジュースだ。ようするにさ、そういう規則がある。(中略)材料を混ぜたら、とても美味しいジュースになったんだ」
日比野「そいつは良かった」
伊藤「そう。良かった。だから、別の日に、もう一度同じジュースを作ろうとしたのに、今度はうまくいかなかった。材料がひとつだけ足りなかったんだ。もしくは量が少なかったんだ。そうしたら、まったく似ても似つかない飲み物になった」
日比野「ぜんぜん、味が違うのか?」
伊藤「そう、ぜんぜん違う。材料がほんの少し違うだけで、まったく違うジュースができる。とても敏感な機械なんだ。それでもって、これをカオスって言う」
日比野「まずそうな名前だな」


日比野「伊藤は天使を見たことがあるのか?」
伊藤「あるわけがないよ」
日比野「それなら、否定するな」
伊藤「どういうこと?」
日比野「リンゴを見たことのない奴に、青いリンゴはリンゴじゃないなんて言われても、納得が行かないだろ」



愛想のない日比野のツッコミや、逆に何気にいいことを言う日比野がなんかいい。